2016年8月14日日曜日

4X’s 2

「人前に出すのを避けているんだな。」

ポールの呟きを聞こえなかったふりをして、ダリルはドアを開けた。ポールはそれに気づくと、階段を上り、家の中に足を踏み入れた。
 外が強烈な陽光で明るかったのと対照的に、屋内はひどく暗くひんやりとしていた。ダリルは自分の貧しい生活を恥と感じたことはなかったが、ポールの目にはどう映っただろうと気になった。家具の多くは彼の手造りだ。新しいのは息子の作品も混ざっている。店で買った物は少ない。自給自足に近い生活で彼は満足だったが、ポールには想像もつかないだろう。

「何か冷たい物でも飲むか、ここにも冷蔵庫くらいはあるんだぞ。」

台所に向かいかけるダリルの手をポールが掴んだ。振り返ると、引き寄せられた。

「お茶を飲みに来た訳じゃない。仕事の話だ、ダリル。」
「飲みながらでも出来るだろう。逮捕される前に君とお茶を飲ませてくれ。」

ポールはいつも職務に忠実だった。今も変わらない。肩から力を抜くことを知らないんだ。ダリルはポールの手の力が緩んだ隙に、相手から離れた。
 台所の窓から畑を見ると、ライサンダーは既に三分の二を耕し終えていた。
 ソーダ水を運んで行くと、ポールは木製の椅子に座って新聞を漁っていた。地元の薄っぺらな新聞だが、1日おきに郵便屋が配達してくれるので、映りの悪いテレビや雑音の酷いラジオよりは頼りになるニュースソースだ。もっとも、ニュースは地元の話題がほとんどだったが。
 ダリルはトレイをテーブルに置き、ポールの向かいの一人掛けの椅子に座った。
「ビールは飲めなかったよな、ポール?」
「ああ」

ポールは新聞を置き、タンブラーを手に取った。

「息子の母親はどうしたんだ、ダリル。君は婚姻登録も子孫登録もしていないが。俺は君の住まいを見つける為にあらゆる法律上の記録を調べたが、この辺鄙な土地の住所登録で君の名前を発見するまで、何一つ見つけられなかった。あの息子は婚外出生児か、それとも違法出生の子供なんだな?」

 彼の詰問口調に、ダリルは否定しなかった。

「私の息子は遺伝子管理局の目を盗んで産まれた。私が創ったんだ。」
「ダリル・・・」

 ポールが首を振った。

「君なら、申し込めばいつでも養子がもらえたはずだ。何故、そんな違法を・・・発見されれば再教育は免れられないぞ。息子は管理局に収監される。君の子供ではなくなるんだ。
わかっているだろう、君自身の仕事だったんだから。」

 ダリルはポールを見つめた。何故わかってもらえないのだろう。管理局からもらう子供など欲しくなかったのだ。誰の子供かわからないクローンなんか。
 ダリルは席を立ち、ポールの隣に移動した。ポールは動じなかったが、タンブラーをテーブルに置いた。