2016年8月28日日曜日

捕獲作戦 1

 ダリルは太陽が西に傾いた頃に帰宅した。車を車庫に入れると、JJが現れ、勢いよく抱きついて彼を驚かせた。

「どうした、何かあったのか?」

そう言えば、いつもは出迎える息子がいない。まだふくれているのか、それとも何かあったのか?
ダリルはJJが離れてから、荷物を車から降ろして、2人で家の中に運び込んだ。
ライサンダーは長椅子に座っていた。ダリルに気づくと、よろよろと立ち上がって、奥の部屋へ行こうとした。ダリルはすぐ彼の異変に気づいた。
荷物を床に下ろして、息子に追いついた。

「その顔はどうした?」

ライサンダーの顔には青あざが出来ていた。殴られた跡だと、ダリルにはわかった。JJに殴られた訳ではないだろう。
ライサンダーは溜息をついた。彼が沈黙しても、JJが報告するだろう。彼は父親を見ずに答えた。

「ボブ・スキッパーと喧嘩したんだ。」

息子の遊び仲間の一人だ。紹介されたことはないが、時々ライサンダーが街で遊んでいることをうっかり口を滑らせる時に、2,3度登場した名前だった。確か、遊技場を経営している男の息子で、養子だ。父親は財産はあるが婚姻許可をもらえなかった。しかし養子縁組許可はもらえたのだ。

「街へ下りたのか?」
「違う。あいつがここへ来たんだ。いきなりだった。俺をびっくりさせるつもりで畑に来たんだけど、JJに出くわしちまったんだ。」
「彼女を見られたのか・・・」
「JJは俺の服を着て、畑の散水を手伝ってくれていたんだ。ボブは俺と間違えて、後ろから彼女に抱きついた。」

どんな脅かし方だ? ダリルは息子とボブの仲がどうなっているのか心配になった。ボブは同性が好みなのか?
ライサンダーの説明が続いた。

「JJは彼を突き飛ばして俺のところへ逃げて来た。俺は止めろと彼に注意したんだ。だけど、あいつ、初めて女の子に触って興奮してた。JJを紹介しろって言うんだ。俺が断ったら、殴りかかってきた。あいつ、仲間内でもボス気取りなんだよ。」

そもそも、何をしにそのボブ・スキッパーは山へ登ってきたんだ? ダリルは少年たちの世界がよくわからない。顔を見せない”子分”の様子を伺いに来たボスの思考など想像出来なかった。それに、ライサンダーが大人しく”子分”でいるのだろうか? ダリルとポールの息子が大人しく同年代のガキの手下になるだろうか?

「それで、おまえは殴り合いに勝ったんだな。」
「わかるの?」
「おまえが負けていたら、JJが戦っていただろう。」

そうだ、JJも負けず嫌いのはずだ。彼女は銃を扱える。ライサンダーが負けていたら、ボブ・スキッパーは生きていなかったかも知れない。

「あいつ、JJのことをみんなに喋るかも知れない。」

ライサンダーはボブを生きて帰したことを悔やんでいる様だ。
ダリルは、JJの安全の為に早くポールに連絡をつけるべきだと思った。