2016年8月20日土曜日

4X’s 11

 誰からも保護を受けられない、とすれば、女性はどこに身を隠すのだろう。
ダリルは無駄足と知りつつ、街の女性救済院を訪問した。そこは、富豪と結婚したある女性が、結婚生活破綻によって夫から暴力を受けた妻たちの駆け込み寺として建設した施設だ。また、誘拐されたり、性的暴力被害を受けて男性に恐怖を感じ、社会復帰が困難な状況に陥った女性のリハビリ施設でもあった。
 ダリルは、ポールが送付してくれた偽の遺伝子管理局の身分証を提示した。
解読器に掛けると、ダリルの偽の経歴が機械に読み取られた。
解読器がダリルを指名手配中の逃亡者だと警告しなかったところを見ると、ポールが捜索優先対象から外すと言った約束を守ってくれたようだ。
 こんなことを平気でやってのけるポールは、かなり上のランクに出世したらしい。

「親から結婚を反対されて家出した少女を捜索している。」

ダリルは偽の手配書を見せた。

「未成年者の婚姻は認可出来ないが、狼の群れの中に子羊を投げ出す様な真似は出来ない。もし彼女が保護を求めて来たら、収容して、管理局に連絡をお願いする。」

 施設職員は、JJに見覚えはないと言った。他の職員にも問い合わせてくれたが、誰もベーリングの娘を見た者はいなかった。
ドームの中で行われているクローンの製造や、子供の交換は、外の世界では誰も知らない。
人々はドームを「安全に出産をする為の施設」「違法クローン業者を取り締まる施設」としか認識していない。だから、この施設がJJを隠しているとは考えられなかった。
 救済院を出て、ダリルは街の繁華街へ行った。田舎の繁華街でも、それなりに昼夜賑わっている。治安もそこそこ良いので、女性が昼間一人歩きしている姿も珍しくない。
もっとも、女性は選ばれた男たちの妻や娘なので、大概ボディガードが付いていたけど・・・
 軽食を出すカフェが大きな交差点の角にあった。路地の駐車して、カフェに入った。
カウンターとテーブルが5つばかりの小さな店だ。軽快な音楽とタバコの煙、男達の体臭と料理の匂い。一般的な街の店だ。
 カウンター奥の席にライサンダーがいて、ハンバーガーが焼けるのを待っていた。待ち合わせしていたのだ。
 ダリルはテーブル席に座り、自分もハンバーガーを注文した。そこへライサンダーが移動してきた。