2016年8月21日日曜日

4X’s 12

「施設にはいなかったんだね。」
「おまえの街の遊び仲間も見かけていないんだろ?」

 ダリルは息子が父親の目を盗んで街で遊んでいたことは、ずっと以前から知っていた。男の子の冒険心は理解出来ると同時に、子供の安全をどう守るか、それが悩みだった。
護身術はみっちり仕込んだつもりだが、息子には実戦経験がまだない。女性の絶対数が少ない世界では、ライサンダーの様な年頃の少年が性犯罪の被害を受ける事件が多いのだ。
果たして、店内の客の幾人かは、ライサンダーをチラチラと見ていた。当人は慣れているのか、全く気にしていない。

「女の子って、どんな場所が好きなんだろ?」

 ライサンダーは女性と接したことがない。街で見かける女性には大概ガードが付いていて、気安く近づけないし、唯一普通に会話出来る雑貨店の女主は高齢だった。
ダリルも女性に慣れているとは言い難い。彼が子供時代から接してきた女性はコロニー人で、科学者であり、養母であり、ドーマーたちの保護者であって恋愛の対象ではなかった。
むしろ、口説かれるのはドーマーの方で、まず子供にレッスンする大人の女性ばかりだ。

「おまえの仲間に女の子はいないのか? 親の目を盗んで遊んでいる娘だっているだろう?」

おまえみたいに、とダリルは心の中で付け加えた。
うーん、とライサンダーは考え込んだ。つまり、仲間内に不良少女がいるってことだ。
ダリルが辛抱強く待っていると、2人のハンバーガーが運ばれてきた。
決して安全な肉を使用しているとは、元ドーマーには思えないのだが、ドーム外の人間に選択権はほとんど無い。ダリルはタバコの煙も嫌いだが我慢していた。ライサンダーは平気そうだ。ポールなら、こんな店には決して近づかないだろう。

「女の子等は・・・」

とライサンダーが言った。

「買い物が好きなんだ。アクセサリーとか、服とか靴とか・・・でも、例の女の子はショッピングモールには行かないと思う。」
「何故そう思うんだ?」

ライサンダーには、JJがどんな境遇なのか、簡単に話しておいた。
メーカー同士の闘争に巻き込まれて親を亡くし、逃亡している気の毒な少女だと・・・。

「彼女は遊びに行った訳じゃないし、逃げているんだから・・・それに友達がいる様にも思えない。女の子は一人でモールに行ったりしないんだ。」

ダリルは、最後に少女がいたであろう場所を考えた。
母親共々ラムゼイに攫われて、そこで父親が奪還を図り、ラムゼイと共倒れになった。
管理局はラムゼイの研究所を捜索したと言うが、砂漠の中の施設だから、ドーマーたちはそう長く滞在しなかったはずだ。
少女はまだそこに隠れているのではないか。
彼は息子に命じた。

「早く食え、行き先が決まった。」