2016年8月21日日曜日

4X’s 14

 ラムゼイの研究所は表向き神経障害者療養施設だった。砂漠の中のオアシスの様に地下水を利用して緑の空間を造り、二階建ての病棟をその中央に設けていた。
 ダリルたちが訪れた時、施設はベーリングの私兵の襲撃で破壊され、当局の捜査で荒らされていた。電力供給が止まっているのは発電設備がやられたからだろう、地下水を組み上げるポンプが停まり、植物が枯れかかっていた。隠れ蓑だった入院患者はラムゼイがベーリングの攻撃を予想したのか、先だって別の病院に転移させられていたので、犠牲は出なかったそうだ。メーカーにも良心はあるのだ。
 犯罪現場を示す黄色いテープが周囲に張り巡らされ、割れた入り口のガラス扉の破れ目から砂が中に入り込んでいた。窓も同じだろう。
管理局は証拠物件を押収すると、現場保存はしないのだ。ダリルは外部に残された足跡や自動車のタイヤ痕を見て、捜査関係者が引き上げた後に多くの訪問者があったことを知った。
略奪者だろう。ダリルは銃を出して、ライサンダーに渡した。

「ここで出遭うヤツは碌でもない連中だろう。危険を感じたら迷わずに撃て。ただし、女は撃つなよ。」

 ライサンダーが建物を見上げた。

「でかい建物だから、ゆっくりしていたら明日になるよ。二手に分かれて探そうよ、今夜はここでキャンプするんだろ?」

 少しピクニック気分だ。
 ダリルはゆっくり周回してみてどこにも車がいないことを確認してから、庭に停めた。

「おまえは2階から見て行け。私は地下から始める。2時間後に車に戻って来い。野宿する場所はそれから決める。」

 地上階は療養所だったから、ライサンダーはメーカーの実体を示す物を見ずに済むだろう。
 エレベーターが動かないので、2人は階段で別れた。

 ダリルは階段を下りながら、ラムゼイ博士は死んだのだろうか、と考えた。ポールは「ほぼ全滅」と言ったが、犠牲者の氏名は明かさなかった。言う必要がなかったからだろう。
 ラムゼイ博士は、ダリルが仕事を依頼した時、酷く驚いていた。無理もない、メーカーを摘発するはずの遺伝子管理局員が、自分のクローンを発注したのだから。しかも、男同士の遺伝子を合成する子供だ。博士はダリルの顔を見て、「禁断の恋だな」と分析して笑った。
ダリルが罠を掛けてきたと懸念したかも知れないが、ダリルのなけなしの財産と彼自身の遺伝子を採取させる条件で、仕事を請け負った。
つまり、博士はダリルの遺伝子でライサンダーの他にも数人のクローンを作ったのだ。ドーマーの遺伝子は高額で売れる。子供たちはどこかの結婚しない富豪や、子供に恵まれない夫婦に売られたのだ。しかし、ダリルには知ったことではなかった。彼にとって「子供」は、ポールとの間に生まれる子供だけだった。
 天才ラムゼイ博士をもってしても、男性同士の遺伝子を組み合わせて子供を作るのは困難だった。生命が発生したのは、わずか3体だけで、ダリルは三つ子を持つか、1人を選択して、残りをスペアとして凍結するか、と迫られた。
 彼は、一番発育の良かった一体を選び、残りを自分の目の前で廃棄させた。ラムゼイは胎児も命なのだと渋ったが、ダリルが頑として聞かなかったので、焼却した。