2016年8月22日月曜日

4X’s 19

 ポール・レイン・ドーマーは緑色に輝く葉緑体毛髪が好きではなかった。彼は幼い頃から女性も羨む美貌の持ち主だったが、当人は髪の毛が緑色だからちやほやされるのだと思っていた。
 だから、恋人のダリル・セイヤーズ・ドーマーがドームの中の将来に絶望して脱走した時、彼は剃髪した。彼の髪を愛したリン長官に無言で抗議したのだ。リンがダリルを西ユーラシア・ドームにトレードして、ダリルがそれを嫌がって逃げた、と思ったのだ。
彼は、出世しても妻帯しても、ダリルと少年時代同様巧くやっていけると信じていた。ドーマーは誰でもそう言う生活をしているのだから。
 ダリルが規則だらけでコロニー人に逆らうことを許されないドームの生活そのものが嫌になって、それにポールが疑問を抱かないことに絶望したことを、ポールは気が付かなかった。だから、リン長官への抗議も、剃髪で終わったのだ。
 しかし、ポールの剃髪の意味に気が付いた執政官が1人だけいた。人間の体表組織の老化現象を研究している学者、ケンウッド博士だった。ケンウッドはコロニーの「地球人復活委員会」本部に通報した。
「アメリカ・ドームの長官リン氏が、ドーマーに愛人関係を強要した上に、進化型1級遺伝子保有者を逃亡させた。」
 本部は、愛人云々より、後半の部分の訴えを重視した。進化型1級遺伝子は、地球人にはないはずの遺伝子だ。これは宇宙空間を旅する宇宙船の操縦士の為に人工的に開発された遺伝子で、ドームに提供された女性の卵子に偶然にも因子が含まれていたのだ。
だから、赤ん坊のダリルはドーマーとして残されたのだ。彼の子孫は、因子を取り除いた核を用いなければ作ってはいけないことになっていた。 リン長官の罪は、地上に放ってはいけない遺伝子保有者を逃がしてしまったことだった。
 リンは更迭され、後任の長官はポールの美貌を警戒して彼を遠ざけた。ポールは5年間窓際に追いやられ、這い上がるのに努力しなければならなかった。妻帯希望を出すどころではなくなったし、第一、ダリルを失って、家族を持ちたいと言う夢も失った。
 死にものぐるいで働いて、やっと名誉回復した時に、長官が交代した。
 ケンウッドは、ポールを好いていなかったが、才能は認めていたので、重用してくれた。
仕事で必要だと判断すれば多少の我が儘も聞いてくれた。

 ダリルが息子と共にX染色体の4倍体少女と持久戦に入っている頃、ポールはケンウッドの執務室に呼ばれていた。