2016年8月29日月曜日

捕獲作戦 2

 翌日、ライサンダーとJJは裏山の隠れ家へ移った。そこは天然の洞窟にダリルが手を加えて造った「別荘」だった。岩室に狭いながらも居住空間をしつらえて、時々親子でそこに泊まったり、外出が長引く予想の場合や、予告された来客があった場合に、ライサンダーを隠していたのだ。当然、食糧や生活物資を備蓄してある。
 ライサンダーは父親を一人家に残すことを渋ったが、JJを不良から守ったことをダリルに褒められると気分を直して、指示に従った。
 2人の若者が出かけて半時間もしないうちに、訪問者があった。
昨日ライサンダーと一悶着起こしたボブ・スキッパーことロバート・スカルプ・ミクロビッチの父親だった。街の有力者の一人で、遊技場の経営者、マイケル・ミクロビッチだ。
彼は、入り口に立ったまま、家の中に招き入れようとしないダリルに向かって、20分間も息子が受けた被害の苦情を訴えた。多分、この男は、息子が誰かと問題を起こして負けて帰ると、その度に相手の家に怒鳴り込むタイプだ。相手の言い分を聞こうともしない。
 ダリルは果てしなく続きそうな苦情に、強引に口をはさんだ。

「それで、あんたの息子はどんな具合なんだね? 骨を折った訳じゃないだろ?」
「息子の顔は殴られてカボチャみたいに腫れ上がっている。とても学校へ行けたもんじゃない。あんな乱暴をするガキを育てたおまえの責任だ。」

 ミクロビッチはダリルが自分より若く見えるので、実際に10歳は若いのだが、威圧的に非難した。

「それで、私にどうしろと言うんだ?」
「医者代を支払え。それから、息子共々、ボブに謝罪しろ。」

 ダリルは、こう言う場合は弁護士が要るかな、と思いつつ、一言提案した。

「その前に、ボブにも謝ってもらいたいな。女性に失礼なことをした謝罪だ。」

 ボブは親に喧嘩の原因を語っていないはずだ。果たして、ミクロビッチはダリルの言葉を理解しなかった。

「何のことだ?」
「あんたの息子が、東部から遊びに来ていた私の姪っ子にちょっかいを出して、止めに入ったうちの子と殴り合いになったと、ボブは言わなかったのかな?」

 ミクロビッチが黙り込んだ。女性に乱暴狼藉を働くと、罪が重い。例え少年でも15歳以上は成人と同じと見なされる。痴漢・迷惑行為は軽くて懲役5年以上、強姦に至っては終身刑か死刑だ。もしボブが実際は何もしていなくても、女性側から訴えを起こされると、少年の未来はお先真っ暗になる。
 ミクロビッチが確認するかの様に尋ねた。

「うちの息子が、おまえの姪に手を出そうとしたって言うのか?」
「出したんだ。背後から抱きついた。」

 ボブはライサンダーと間違えてふざけてJJに抱きついたのだが、陪審員によっては強姦未遂と解釈されかねない。それに、JJに交際を要求したのも良い印象を与えないだろう。

「その・・・おまえの姪っ子は今、どこにいるんだ?」
「昨日の一件で怖がったので、今朝、東部に帰らせた。息子が空港まで送って行ったところだ。」
「娘っこは帰ったんだな。」

ボブの狼藉を訴えずに被害者が去ったことを聞いて、ミクロビッチは安堵した。
証人がいなければ、ダリルはボブを訴えないだろう。彼は勝手に自分の言い分を取り下げることに決めた。
 ガキの喧嘩は世話が焼けるよな、みたいなことを言って、車に乗り込み、さっさと山を下りていった。