2016年8月26日金曜日

4X’s 23

「儂は悪運が強いのだよ。友達が警報を発してくれたんでね。出かけて良かった。
研究所と弟子の数名がやられてしまったのは口惜しいが・・・。」

 ラムゼイ博士はそれほど残念でもなさそうに言った。
ダリルは、彼が何気なく言った言葉を聞き漏らさなかった。友達? ベーリングの襲撃を教えた人間がいたのか? ベーリングの組織にスパイがいたのか、それとも、この「戦争」を画策した管理局の内部に・・・? 
 ラムゼイがダリルに尋ねた。

「おまえさんは、ここで何をしてるんだね? もう夜中だぞ。」
「あんたが私に関する資料を残してあるんじゃないかと、調べに来たんだ。あんたのことだから、私に全て処分したと見せかけて記録を取ってあるかも知れない、と心配になってね。」
「おまえさんのものは、18年前に、おまえさんの目の前で全て灰になったよ。惜しかったが、約束だったからな。儂は顧客との契約は守る主義だよ。
だから、何もなかったろう? 管理局も後捜査で何も回収していないはずだ。」
「じゃぁ、あんたは何しに今夜ここに来たんだい?」
「儂も残務整理だ。おまえさん、ここの地下を既に見たのだろう? 墓場になってしまった保育室の哀れな連中をせめて焼いてやらんとな。ハゲタカの様な同業者に荒らされても困るから。」

 ラムゼイ博士は部下たちに地下室の始末を命じた。
数人が廃墟の中に入っていった。ダリルは車をはさんで老人と対峙していたが、車内には運転席の男がいるので、出来るだけ刺激しないように努めた。
 博士が尋ねた。

「子供は元気か?」
「死んだよ。」

ダリルはあっさりと答えた。

「2歳になるかならないかで、風邪をひかせてしまって、あっと言う間だった。医者には連れて行ってやれない身分だったのでね。可哀想なことをした。」
「ふむ」

ラムゼイがかすかに笑った。

「だからスペアを取っておけ、と言ったのに、おまえさんは強引に廃棄したんだ。命には変わりないのにな。」
「1人で3人も育てるのは無理だ。」

すると、運転席の男が口をはさんだ。

「1人育てるのも3人育てるのも同じだ。」