2016年8月28日日曜日

4X’s 29

 遺伝子管理局中西部支局の支局長レイ・ハリスは、コロニー人だ。アメリカ・ドームに赴任したのだが、宇宙時代から直せない悪癖、飲酒で失敗して、支局へ飛ばされたのが5年前。ドームの長官はケンウッドだったが、彼の処分を決めたのは、宇宙にある本部だ。しかし、通報したのはケンウッドだとハリスは信じていた。当然、恨んでいた。地球で生活出来ることを喜ぶコロニー人もいたが、ハリスは元々地球勤務を希望した訳ではなかった。ただ、地球のドームで働いて出世の近道を考えただけだ。地球勤務経験者は経歴に箔が付く。
しかし、地球では多種多様なアルコール飲料が生産されていて、彼は忽ち虜になってしまった。挙げ句、酔っ払って暴力事件を起こし、砂漠の街に飛ばされたのだ。ドームに帰るには、何か手柄を立てなければならない。
 ハリスは受付のブリトニー嬢が提出した男たちの要望書をドームに電送してしまってから、改めて自分で目を通した。数枚赤ペンで書き込みがあったが、いつものことだ。

「いつもながら、40代、50代のオジサンの相手ばかりするのは、うんざりだろうな。」

若いブリトニー嬢にちょっと労うつもりで声をかけた。
地球人の40代、50代は既に「初老」になる。老化が早いからだ。ハリスは自分も老化が早まることを恐れていた。彼は50歳だが、地球人の目から見ると30代に見える。だが、最近皺が増えたのではないかと心配で堪らなかった。
 ブリトニー嬢はニコッと笑った。

「そんなことありませんわ、支局長。今日はとても目の保養になる人がいましたよ。」

 ハリスはもう1度書類をめくって見た。どれも年齢は40代、50代だ。目の保養になるオジサンって、どんな男だ?

「美男子がいたのかね?」
「はい、とってもハンサムでした!」

 ブリトニー嬢は思い出したのか、うっとりと宙を見た。

「40歳だなんて、信じられませんわ。20代だと思いましたもの。」

 ハリスは再度めくって3枚目の書類で手を止めた。この名前は、記憶にある。聞いたことがある。ドームではある種の「伝説」になっている名前だ。最優先捜索対象リストにあったはずだ。

「まさか・・・な」

思わず独り言が出たので、ブリトニー嬢は心配になった。

「何かまずいことになりそうですか?」
「否、何でも無い。もう帰って宜しい。」