2016年8月15日月曜日

4X’s 4

 ポール・レイン・ドーマーとダリル・セイヤーズ・ドーマーは、ほぼ同じ時期に誕生し、ドーマーとして残す子供として選別され、コロニー人に育てられた。
地球人の子孫をつなぐ為に研究しているコロニー人は「執政官」と呼ばれるのだが、執政官は政治をするのではなく、ただの遺伝子学者たちだった。
執政官は選別した子供達を愛情を持って育てたが、自然な親子関係ではなかったから、ドーマーたちも自然な人としての生活を知らずに育った。
それに、彼らは90パーセントが男子だったので、いや、地球人の子供は100パーセント男子で、コロニー人のクローンの女子とは思春期を迎える前に隔離された。

 ポールとダリルは、新生児時代から仲良しだった。いつも一緒にいて、ほとんど兄弟と言うより一心同体の仲だった。
思春期に入ると、2人は体の要求するまま、恋愛の真似事まで始めた。
もっとも、この様な関係は、男子ばかりのドーム内では珍しくなく、また同性の恋愛は子孫を残すことには関係がなかったので、執政官たちは黙認した。
適齢期になれば、「繁殖用」ドーマーには、クローンの女性相手の妻帯が許可され、同性の恋愛は自然消滅することが多かったのだ。

 執政官たちは、ドーマーにもコロニー人やドームの外の一般人と同じ心があることを忘れていたのかも知れない。

 ダリルたちが遺伝子管理局の局員として働き始める直前に、ドームの長官が交代した。
新長官となったリンは、ポールの美しさに一目惚れした。
ドーマーたちは美少年揃いだったが、ポールの美貌は群を抜いていたのだ。
リンは、ポールを贔屓にするにあたって、邪魔なダリルを他のドームに・・・西ユーラシア・ドームに他のドーマーとのトレードに出してしまった。
 ダリルは我慢した。ドーマーの大陸間トレードは遺伝子の偏りを防ぐ目的でしばしば行われており、珍しくなかったし、大人になればいずれは離れて暮らすこともあると覚悟はしていたのだ。永久に会えなくなる訳ではなかったし、リンの任期が終われば、またアメリカ・ドームに戻れるかも知れない。
 ところが、ダリルのそんな希望を打ち砕いたのは、他でもない、ポール・レインその人だった。

 アメリカ出張を命じられ、久し振りに里帰りしたダリルは、ポールと再会した。
ポールはリン長官の愛人同然になっていて、ダリルと出遭っても喜びを露わにすることはなかった。ダリルは思わず、彼に尋ねた。
 リン長官のペットになるのは楽しいか? と。
 ポールは平然と答えた。

「仕事だよ。ベッドに入る度に出世出来る。妻帯許可をもらえるのも、間もなくさ。」

 ダリルの近況を尋ねることすらしなかった。
 ダリルは未来に絶望した、