2016年8月30日火曜日

捕獲作戦 4

 ボーデンホテルはこの界隈で一番大きなホテルで、「高級」と見なされていたが、結局のところ、田舎のビジネスホテルの域を出ない。ドレスコードなどないし、館内にショッピングモールがある訳でもない。ただ、牧童や農夫が野良着のままで入れば、セキュリティ係につまみ出される程度の上品さは持っていた。
 ダリルは取り敢えずシャツの上にジャケットを着た。銃は車に積んだが、携行はしない。あのホテルの入り口には銃火器のチェックシステムがあるのだ。武器を携行してホテル内に入れるのは、銃携行を許可された公務員、つまり警察官と遺伝子管理局員だけだ。
ホテルの構造は、頭に入っている。20年前と同じままであってくれれば良いが、と思った。
 車庫に行くと、ライサンダーが車にもたれかかって待っていた。
どうして隠れ家でじっとしていないんだ、とダリルは心の中で愚痴った。目を離すとすぐに出歩くのだから・・・
ライサンダーは父親の身なりを上から下までじろっと見た。

「オシャレなんかして、あのスキンヘッドに逢いに行くんだろ?」

非難めいた声で尋ねた。ダリルがJJの引き渡しの打ち合わせに行くのだと見抜いている。

「彼女の処遇に関して最善を尽くせと言うだけだ。ドームは、人権を守る。」
「父さんはドームで暮らしていたからね、連中を信じられるんだ。だけど、JJがどう感じるかは、誰にもわからないだろ?」
「JJがどうしてもドームに行きたくないと言うのなら、ここに残ればいいさ。」

ダリルは息子とこれ以上議論したくなかった。これから罠かも知れない会見に臨むのだ。余計な時間を取りたくなかったし、エネルギーも使いたくない。

「私はこれからポールと会ってくるが、もし明日隠れ家に私が現れなかったら、おまえは彼女を連れて北へ行け。ニューシカゴの偽造屋ジョンソンを訪ねるんだ。以前、連れて行ったことがあったから、場所は覚えているだろう?」
「うん・・・だけど、父さん・・・」
「時間がない、ポールは時間を守らない人間とは面会しない。私はもう出かける。」

ライサンダーが渋々車から離れたので、ダリルは車に乗り込んだ。ライサンダーは彼がエンジンをかけると、さっさと車庫から出て行き、岩場の方角へ去って行った。