2016年9月4日日曜日

捕獲作戦 11

 ヘリコプターは平坦な場所に着陸する。当然のことながら、クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーは、操縦するヘリを質素な石造りの家の前にある畑のど真ん中に着陸させた。 家の主が丹精込めた野菜が押しつぶされても気にしなかった。
 ヘリのエンジンを切って外に出ると、家の入り口の中でポールが立っているのが見えた。珍しく口元に笑みを浮かべているのを見て、クラウスはドキッとした。幼い頃から策士で知られていたポールが、そんな笑みを浮かべる時は、必ず何か企んでいる。
 朝の挨拶もそこそこに、ポールはクラウスを家の中に招き入れた。

「他の連中が来る前に、専用ジェット機に運んで欲しい。特に、あのややこしいキエフには見られたくないんだ。」

そして、付け加えた。

「ガキと小娘も山の中にいるんだ。ガキは攻撃して来る恐れがある。」

どこのガキ? と思いつつ、クラウスは案内された寝室に入り、ベッドの上に横たわる人物を見て、アッと声を上げて立ち止まった。
思わず駆け寄り、そっと頬を手で撫でた。

「ダリル兄さん・・・」

 これが他のドーマーだったら、ポールはぶん殴ったかも知れない。子供の時から他人がダリルに触れるのを嫌っていたからだ。もっとも、これはキエフがポールに執着するのとは理由が異なった。ポールにはポールの「遺伝子の都合」と言うものがあるのだった。
 ポールは、クラウスが兄貴に頬ずりしてキスするのを暫く眺め、弟分が落ち着きを取り戻すのを待った。

「麻酔が効いているから夕方迄は寝ているはずだ。君はすぐに彼をヘリで空港へ運んでくれ。ジェット機の俺たちの専用席に入れて、君もそこで待機しておくように。
俺は、ガキと4Xを探す。」
「わかりました。しかし、ガキって?」

ポールが一瞬ムッとした表情になり、クラウスは聞いてはいけないことを聞いたと知った。話題を変えようとしたら、ポールが先に説明した。

「どうせ、後で噂が広がるだろうから、先に教えておく。ダリルが18年前に俺の遺伝子を盗んで、メーカーにガキを作らせて育てていたんだ。」

 クラウスは、冗談を聞いたのかと思った。冗談を言わないポールが、こんなとんでもないことを、冗談で言うだろうか。
 彼はコメントを避けた。いきなりダリルを抱き上げた。

「ヘリに運びます。出来るだけ、目撃されないようにします。」