2016年9月26日月曜日

トラック 11

 ジェリー・パーカーは積荷を守ることを放棄した。ライサンダーに指示も与えずに車外へ出たのだ。ライサンダーがあっけにとられているうちに、彼は道路から野原に出て、歩き始めた。
 ライサンダーは前方を見た。パトカーに警察官たちが乗り込み、赤色灯を点滅させてこちらへ動き始めた。
 突然、後続にいた真ん中のトラックが向きを変えた。逃げるつもりだ。パトカーがサイレンを鳴らした。ライサンダーは銃声を聞いて、座席に身を倒した。メーカーたちが警察に発砲している。 ライサンダーのトラックのフロントに衝撃があり、罅が入った。向きを考えたら、警察が撃ってきたのだ。こっちは何もしていなのに。
 真ん中のトラックは完全に向きを変える前にパトカーに前に回り込まれ、荷台にいたメーカーたちが外へ出て警察と銃撃戦を始めた。ライサンダーはジェリーが開けっ放しにした運転席側から外に転がり出ると、野原に向かって走った。
 背後で誰かが怒鳴っていたが、耳に入らなかった。彼は涸れた溝に転がり込み、身を伏せていた。 ジェリー・パーカーが何処へ行ったのか、JJとポールが無事なのか、皆目わからなかったが、武器も持たない少年には手の施しようがなかった。

 JJはトラックが走り出してすぐにポールの手錠を外した。トイレ休憩の前にもそうしていたので、2人は自然に手を触れ合い、静かな会話をして時間を過ごした。JJはドームのことを知りたがった。女性は何人いるのか? 服はどこで買うのか? 食べ物はどうするのか? ポールは初めのうち適当に答えていた。面倒だったからだ。しかしJJがあまりに熱心に質問するので、彼女は本当にドームへ行きたいのだと悟り始めた。
 ベーリング博士は4Xの数式を長い間秘密にしてきた。娘の存在をひた隠しにしていた。つまり、JJは家の中に閉じ込められて育ったのだ。彼女にとって、ドームは家より広い自由な世界に思えるのだろう。
 トラックが不意に停まった。先刻の休憩からそれほど時間がたっていない。目的地に着いたとも思えなかったので、ポールが不審を覚えた時、荷台の壁の向こうからサイレンが聞こえ、銃声が響いて来た。それも1発や2発ではない、激しい撃ち合いになった。
 JJがポールにしがみ付いて来た。彼の首に腕をまわし、全身を震わせて・・・
 ポールは、白煙と銃弾が飛び交う部屋のイメージを脳の中で見た。血を流して倒れる女性。ママ! と叫び声が聞こえた様な気がした。あれはJJの声なのか?
 JJは銃撃戦の音を聴いて、両親が死んだ事件を思い出したのだ。今までずっと気丈に振る舞っていた少女の心の壁が一気に崩れた。 ポールは彼女の恐怖と悲嘆を感じたが、心をシャットアウトすることはしなかった。彼女を抱きしめ、彼女の感情を受け止めてやった。首筋に熱い雫が落ちてきた、JJが泣いていた。
 何分続いただろう? 実際は10数分だったはずだ。銃声が止んだ。外が静かになり、それから誰かが荷台の扉をノックした。 ポールは黙っていた。JJはまだ声をたてずに泣いていた。
 扉が開かれ、午後の日差しが荷台の中に差し込んできた。狭い荷台だ。扉を開けたど派手な服装のドレッドヘアの男が目の前に立っているのが見えた。

「あーー、もしかしてお邪魔だったかなぁ?」

 のんびりした口調に安堵の感情が混ざっていた。ポールはJJに大丈夫だ、と声を掛けた。それから、外の男に言った。

「なんで君がここにいるんだ? カリブ海は方角違いだぞ。」