2016年9月19日月曜日

牛の村 12

 ダリル・セイヤーズ・ドーマーは夢の中で誰かに名前を呼ばれた。ポールかと思ったが声が野太い。勿論ライサンダーではない。息子は絶対に名前で父を呼んだりしない。誰の声だったろう?と考えていると、体を揺さぶられた。

「起きろ、セイヤーズ! 長官がお呼びだっ!」

 無理矢理目を開くと、保安課のゴメス少佐が立っていた。体を揺すっていたのは監視役の保安課員だ。

「何? 誰が呼んでるって?」

もう1度毛布を被り直そうとすると、剥ぎ取られた。

「ケンウッド長官がお呼びだ、と言っているんだ。早く起きろ。」

毛布を取ったのはゴメス少佐だった。ダリルは渋々起き上がった。上体を起こすと少佐が身を引いた。寝ぼけたドーマーは扱いを間違えると危険だ。
 ダリルは床に降りて、寝間着の着崩れを直した。サンダルを履いてから、少佐が下半身こそ制服だが上はTシャツ1枚だけだと気が付いた。少佐も寝入りばなを起こされたのだ。
 監視役は観察棟に残して、ダリルとゴメス少佐は中央研究所に向かった。深夜の1時だ。ドーム内は静かだが、宇宙で生まれ育ったコロニー人は地球生活に慣れるまでは夜でも活動している。研究棟の窓のいくつかは灯りが点っていた。地球生活に憧れてやって来たゴメス少佐はすっかり地球に順応していたので、非常事態さえなければ夜は寝る習慣だった。そして、今は非常事態が発生していた。
 連れて行かれたのは長官室ではなく会議室だった。ドアが開くと、中にいた人々がこちらを振り向いた。 ハイネ管理局局長、北米北部班チーフ、中米班チーフ、南米班チーフ、医療区長、そして正副長官。ラナ・ゴーン副長官は唯一人の女性だが、今夜はすっぴんだった。それでも美人だ。
 ゴメスに誘導されて、空いた席に座ってから、ダリルは北米南部班チーフがいないことに気が付いた。ポールはまだ・・・?
 ケンウッド長官がダリルに、起こして悪かった、と謝った。

「だが、今回の事案は君の力を借りた方が良いと思ったのでね。」