2016年9月27日火曜日

トラック 12

 ライサンダーは銃撃戦の音が止んだ時、遠くの方にジェリーの姿を見たと思った。彼は溝から顔を出した。 草むらの向こうを、ジェリーが歩いて行く。走らずにただ歩いて行く。何処へ行くつもりだろう?
 立ち上がり掛けた時、後ろで人の気配がした。

「動くな、手を揚げてこっちへ来い。」

 ゆっくり振り返ると、メーカーの1人が銃口を向けて立っていた。荒い息をしている。銃撃戦の場から逃げて来て、人質を見つけたのだ。ライサンダーは息を呑んだ。
男の後ろからダークスーツの男が現れて、いきなり男の腕を掴んだ。ためらいなく腕を捻った。男の悲鳴が上がり、銃が地面に落ちた。銃はダークスーツの男が後方へ蹴飛ばして、後から来た警官が慌てて拾い上げた。

「うちの子に銃を向けるんじゃない!」

とダークスーツの男はメーカーを叱りつけた。警官にメーカーを引き渡すと、彼はライサンダーを振り返った。

「怪我はないか?」

 ライサンダーは父親を見つめた。父は、自分でカットしたぼさぼさ頭ではなく、綺麗なビジネスマンのヘアスタイルで、土埃と汗の染みこんだ野良着とスニーカーではなく、パリッとしたダークスーツに白いシャツにネクタイ、革靴だ。ダリル・セイヤーズではなく、ダリル・セイヤーズ・ドーマーだ。ドームは逃げた雄馬を取り戻し、烙印を押して所有権を明確にしたのだ。
 ダリルは差し出した手を息子が掴まずにただ見つめているだけなので、この子は父親がここにいることにまだ実感が湧いていないのだな、と解釈した。彼は自分で息子の手を掴み、溝から引っ張り出した。

「私のベビーは、心ここにあらずの状態だなぁ。」

 昔から変わらないのんびりとした口調で、ライサンダーの服の埃を払い、息子が怪我をしていないかチェックした。
 ライサンダーは涙がジワジワと滲み出てくるのを止められなかった。会いたくて堪らなかった父が目の前にいる。でも何故だか遠い存在にも思える。少年は混乱しかけていた。メーカーから救出されたことより、父親との再会に彼は戸惑っていた。
 ダリルが正面に戻って来た。

「おまえの顔をじっくり見せてくれ、ライサンダー。」

2人は目を合わせた。ダリルがにっこりした。

「おまえは目元がポールにそっくりだなぁ、でも残りは全部私だ。」

 ライサンダーはいきなり父親に抱きついた。そして感情を爆発させた。
大きな成りをして幼子の如く泣きじゃくる息子をダリルは優しく抱きしめていた。