2016年9月16日金曜日

JJのメッセージ 19

 「引っ越すって、何処へ行くんだ?」

 ライサンダーが尋ねると、ラムゼイ博士とジェリーが彼をじろりと見た。敵味方の判別すらされていない新入りに、言う訳ないよな、とライサンダーは思った。
 博士は少年の質問を無視することにして、ジェリーに準備に取りかかれと命じた。

 ライサンダーは部屋に戻った。JJがそばに来て、タブレットに「今日は退屈だった」と書いた。ライサンダーは暫くその短い文を眺めていた。
退屈なのは、閉じ込められているからだ。
ラムゼイと行動を共にするなら、この先もずっと監視が付き、行動が制限されるだろう。
そんな生活を望んだだろうか? ドームと一緒じゃないのか? 
 親父はJJに何と言っていた? ドームに協力して働けば、自由に出入り出来るようになると言わなかったか? そもそも、親父はドームの何が嫌で逃げ出したんだ?

 ライサンダーは、先刻の居間に戻った。ジェリー・パーカーは既に退室して居らず、博士が1人で端末を眺めていた。少年がドアをノックして入室すると、顔を上げた。
ライサンダーは彼より先に声を掛けた。

「博士、あんたはドームで働いてるスキンヘッドの男を知っているか? 水色の冷たい目をした男だ。」

 ラムゼイ博士がニヤリと笑った。

「知っているとも、坊や。儂等メーカーは、『氷の刃』と呼んでいる。情け容赦なくメーカーとクローンを摘発して逮捕しまくっているヤツだ。 類い希なる美貌の持ち主だ。綺麗な男だったろう?」

彼は目を細めてライサンダーを見た。

「おまえの親父を攫ったのは、そいつかね?」
「そうだ。ある日、突然やって来て、親父にJJを探せと言ったんだ。探し出せば、指名手配を解除するみたいなことを言って、親父を騙した。」
「逮捕してしまえば、指名手配は終わりだからな。」

 博士は可笑しそうに呟いた。

「親父の罪は何だったんだろ・・・」
「逃げたことだろう。」

博士は事情を知ってるかの口ぶりだ。

「男のドーマーは、女の赤ん坊と取り替えられた子供の中で、何らかの能力や、外に出すと都合の悪いことが起こる遺伝子を持つ子供が選別されて残されるのだ。
おまえの親父は、恐らく進化型の遺伝子を持っているのだ。おまえを見ればわかる。折れた脚が直ぐに治っただろう? 体躯の損傷を修復するのが常人より早すぎる。地球人には不自然な、コロニー人の遺伝子だ。ドームは、地球人の生殖能力を可能な限り地球人の力で復活させたい。おまえの親父の染色体には、復活能力を高める因子がある。だから・・・」

老人は少年に笑いかけた。

「ドームはおまえの親父を使って、女の子を創りたいのだよ。」