2016年9月16日金曜日

JJのメッセージ 20

 逃げ出したりさえしなければ、とラムゼイ博士は言った。
逃げ出したりさえしなければ、ドームは比較的自由な場所なのだ、と。普通に仕事をして、趣味を持って好きな相手と暮らせる場所だ。ただし、規則を破ると厳しい罰則が待っている。

「おまえの親父は好きな相手との間の子供が欲しかったのさ。ただ、残念なことに、その相手は同性だったのだな。自然な地球人の生殖活動を目標としているドームとしては、それは許せない。恐らく、相手は駆け落ちに同意しなかったのだろう。おまえの親父は相手の遺伝子を盗んで逃げたのだ。」

 ラムゼイ博士は自分の想像したダリル・セイヤーズの過去を語った。彼の空想に過ぎないのだが、実際当たらずとも遠からずで、ダリルが聞いたら赤面しただろう。
 ライサンダーは、ポール・レイン・ドーマーが初めて山の家に現れた時のことを思い出していた。父親は息子に知られまいと努力していたが、かなり興奮していたはずだ。ポールに発見されて、本当ならば即刻逃亡しなければならないのに、見つけられたことを喜んでいるかに見えた。
 そして、ポールも興奮していたことを、ライサンダーは気が付いていた。

俺の片親は、あのスキンヘッドだ・・・

「あいつ、ポールって言うんだ。親父がそう呼んでいた。」
「ああ・・・」
 
 ラムゼイ博士が嬉しそうに頷いた。

「そうだろうな・・・似ているからな。」

 誰に?  俺に? 

 ライサンダーは博士が何か重大なことに気が付いたらしいと察した。それが何なのか、わからなかったが、ライサンダーに今直接関わってくる気配はなかった。