2016年9月24日土曜日

トラック 5

 ラムゼイのトラック部隊は夜明けから4時間ほど走り、小さな寂れた街は通過して、大きなドライブインに入った。長距離トラックがたくさん駐まっている。ジェリー・パーカーは部下たちにそこで昼食と休憩に1時間留まると連絡を入れた。
 ライサンダーとJJは荷台から下ろされたが、ポール・レイン・ドーマーは猿ぐつわを嚼まされ、「後で飯を持って来てやる」と車内に閉じ込められた。
 
 ドライブインの食堂は男達の汗と料理の脂とタバコの匂いでむせかえりそうだった。
ライサンダーはジェリー・パーカーが顔をしかめるのを目撃した。ジェリーもこんな場所に慣れていないのだろう。出来るだけ空気清浄機に近いテーブルに陣取ると、両脇にライサンダーとJJを座らせた。部下たちに現金を渡し、ハンバーガーや珈琲を買わせて、朝昼兼用の食事だ。
 男達は空腹だったのだろう、無駄な喋りより先に食べ始めた。
ライサンダーとJJも脂ギトギトのハンバーガーを口に入れた。贅沢は言っていられない。次の休憩が何時なのかもわからないのだから。
 JJがタブレットでライサンダーに話しかけた。当然、ジェリーの目の前に画面が提示される。

ーーPにもご飯あげなくていいの?

「P」と言うのは、ポールのことだ。それはジェリーにもわかった。ライサンダーが『氷の刃』のファーストネームをラムゼイに教えたのだから。

「なにもかも完璧なのに、どうして口だけ利けないのかなぁ」

とジェリーが不思議がった。JJが返事を書いた。

ーー必要ないから。

「でも、不便だろ?」

ーーいいえ、全然。

 ジェリーはライサンダーを見た。

「不便だと思わないか?」
「そうかなぁ。」

とライサンダー。

「生まれつきだから、それが彼女には自然なんだ。僕等の方がおかしいと思っているはずだよ。」
「それじゃ、ここに100人いて、99人は喋るのに、1人だけ喋らないのは、99人が不自然なのか?」
「視点がその1人だったら、99人は不自然なんだよ。」

ジェリーが考え込んでしまった。ライサンダーは、子供の頃に父親と話した時の、父親の回答をそのまま言っただけなのだ。彼はその時、父の言葉を理解したと思った。しかし、ジェリーはわからないのだ。

「おまえ、難しいことを言うんだな。」

とジェリーが妙に感心した。そして、ライサンダーに現金を渡した。

「それで何か買って、Pちゃんに食わせてやれ。あいつは俺たちの手からは何も食わん。おまえはドーマーの子だから、少しは打ち解けているんだろ?」