2016年9月1日木曜日

捕獲作戦 6

 ホテルの室内はシンプルなシングルルームで、ベッドと机と椅子が一組ずつあるだけだった。
 ダリルの目の前で中年の男が一人、鼻を押さえて呻いているだけで、他には誰もいなかった。男が着用している衣服は宇宙素材と呼ばれる光沢のある薄い布で作られたつなぎのスーツだ。軽量で日光を通さず、通気性と保温性に優れたスーツ、つまり、ドーム人がスペースコロニーで着ている服だ。男はコロニー人だ。しかし、ダリルが知らない人間だ。

「あんた、誰だ?」

 いきなり殴りつけておいて、そんな挨拶もないだろうが、ダリルはそう尋ねるしかなかった。
 男は、鼻血こそ出さなかったが、苦痛で顔を歪めて答えた。

「レイ・ハリス・・・中西部支局長だ。」
「コロニー人なのか?」
「そうだ。」

 ハリスは彼を見上げた。

「ダリル・セイヤーズ・ドーマーだな。」

 ダリルは答えずに、質問を続けた。

「何故レインの名を騙った?」
「私の名では、君は出てこないだろう?」
「レイン宛の面会希望を盗み見たのか?」
「私は支局長だ。本部宛の書類には全て目を通す。」

遺伝子管理局の支局長と言う役職は、役所の維持統制が担当だ。普通は現場に出ない。
現場に出て、違反者の摘発をしたり、違法に生み出されたクローンを保護収容するのは本部局員の仕事だ。支局はバックアップしかしないし、支局の仕事は妊産婦の保護や婚姻の許可を出すことだ。

「私に何の用だ?」
「脱走者が、本部局員に何が目的で面会するのか知りたくてね・・・」

こいつはただの好奇心だろうか? それとも何か悪意があるのか?
ダリルは相手の心理を図りかねた。彼は言った。

「私の目的を知りたくば、レインに聞いてみるが良いさ。」

 多分、本部は4Xの捜索を支局に教えてはいないだろう。メーカー同士の戦争は伝えているだろうが、「機密事項」までは口外しないはずだ。
 ダリルはハリスが単独で行動しているのかどうか、考えた。
どう見ても彼と対等に戦える人間には見えない。そもそも、コロニー人がこんな田舎の支局で働いているのが不思議に思えた。こいつは信用出来ない、と彼は判断した。
ポールがここにいないのなら、長居は無用だ。