2016年10月6日木曜日

出張所 13

「ポールは1年振りに会ったと言うのに、喜んでくれなかった。私は思わず彼に尋ねたんだ。『リン長官のペットになるのは楽しいか?』 と。
 彼は平然と答えた。
『仕事だよ。ベッドに入る度に出世出来る。妻帯許可をもらえるのも、間もなくさ。』
 彼は私の近況を尋ねることすらしなかった。
 私は未来に絶望した。

 ユーラシアでは古い家族制度が残っていた。年寄りを中心に暮らし、子供たちが成人しても配偶者と共に親と住んで、一緒に仕事をして生きていくんだ。彼等は一致団結して困難な時も共に闘っていた。女たちはクローンなのだけど、勿論そんなことは彼等は知らない。男も女も大人も子供も一つの家や村に住んで仲良く暮らして一生を終える。
 私はそれを実際に見て、強く憧れた。私は親を知らないドーマーだ。親の存在など考えたこともなかった。しかし、東アジアの田舎で見た大家族の光景が、私に影響を与えた。
私は家族を持ちたいと強く感じた。妻と子供と、そしてポールと一緒に暮らせたらなぁと願ったんだ。
 それを、ポールに告げるつもりだった。でも、ポールはそんな話を聞いてくれる人ではなくなっていた。
 それでも彼は、私がベッドに誘うと、応じてくれた。ほんの数時間、現実を忘れて快楽にふけった後、私は疲れて眠り込んだポールを眺めて、ふと思った。
 このまま、みんなの前から消えていなくなろう、と。 どこかで子供を創って、2人で暮らそう、と。 私だけの家族を作ろう、と決意したんだ。
 子供はクローンでなければ持てないとわかっていた。女性は高嶺の花だからね。私は遺伝子管理局の人間だったから、どこに行けばどんなメーカーがいるか知っていた。
中西部に、ラムゼイと呼ばれる、凄腕のメーカーがいる。そいつに子供を創らせようと思ったんだ。悪魔の囁きさ。
 大急ぎでポールの遺伝子を保存カプセルに採取した。遺伝子管理局の局員は、常に一般人から検査を頼まれた時に検体を採取保存する為の道具を装備している。だから作業は簡単だったし、すぐに終わった。 私は、ポールを残してそのままドームを出た。
ドームは、入るのは難しいが、出るのは案外簡単だったんだ。今は厳しいけどね。多分、私が逃げてから規則が改正されたんだ、きっと。
 私は口座から全財産を引き出して、中西部へ向かった。

 今思えば、私は物凄ーく愚かだった。ポールが笑わなくなったのは、私がいなくなったからだ。一人でリン長官の嫌らしい行為に耐えていたからだ。そして、リンは常に美しい愛人が他人に奪われないように見張っていたから、私と再会してもポールは感情を出せなかったんだ。もし喜んだところをリンに見られたら、私に危害が及ぶと思ったんだ。
 彼は接触テレパスだから、私の考えなどお見通しだった。私が将来の夢を口で言わなくてもわかっていたんだ。でも私は馬鹿だったから、彼の能力を忘れていた。
ポールは、出世出来れば長官の意のままにならずに済むと、考えていたんだ。妻帯許可をもらえると言うことは、一人前と認められて、それなりの地位に就けると言うことだ。そうなれば、仕事にも自由が利くし、自分から転属願いも出せる。彼は私にそれまで待っていろと言ったつもりだったのに、私は理解出来なかった。
 私はポールに裏切られたと思い、本当は彼を裏切ってしまった。」

「父さん・・・」

 ライサンダーが囁いた。

「Pちゃんは言葉足らずだったんだよ。父さん、そんなに自分を責めることないって。」

 ダリルは首を振った。

「いや、私の罪だ。私がおまえと山で愉しく暮らしていた時、ポールはドームで孤独と闘っていたんだ。本当は、すごく甘えん坊で寂しがり屋の彼が。」