2016年10月8日土曜日

出張所 16

 ダリルとニュカネンが捜査して廻る施設の選択と順番で相談(もめる とも言う)している間に、クロエル・ドーマーは2階へ上がった。
 北米南部班の局員たちが昨日の続きで証拠品の山の仕分けを行っている。9割方片付いているので、この分だと彼等と証拠品を昼過ぎにはローズタウンの警察署へ送れそうだ、とクロエルは判断した。警察署に品物を届けさせたら、そのまま空港からドームへ帰投させれば良い。
 ライサンダーは局員の1人と品物の一つを前にして話をしていた。どうやらラムゼイの農場で見覚えのある品で、説明をしているらしい。
 隅っこのテーブルの上には、ドーナツが3箇残っていた。ダリルの分だ。ニュカネンも気が利かない男だ。朝食を食べさせてやれば、セイヤーズも素直に言うことを聞いてくれるはずなのに、とクロエルは思った。
 彼は自身のコンピュータを開いた。中米で展開している部下達から報告が入ってきている。そちらの面倒も見なければならない。彼は5人の部下から送られて来ていた報告書を読んだ。
 ふと人の気配が近くでしたので振り返ると、ライサンダーが立っていて、彼を見ていた。

「聞いていい?」
「何?」
「さっきのは、読んでたの? それとも見ただけ?」

 クロエルは画面を見た。最後のページを閉じてから、

「読んだけど、それが何か?」

 すると近くの机にいた局員が可笑しそうに解説した。

「その子は、クロエル・ドーマーの速読術に驚いているんですよ。」
「速読術?」
「クロエル・ドーマーはページを見た一瞬で全体の文章を読めるんだ。」
「え? そんなことが出来るの?」

 ライサンダーは感心した。クロエルさんって、本当に凄い人なんだ、色彩感覚だけじゃなく・・・
 クロエルにとっては、当たり前のことなので、感心されても何とも言えない。

「セイヤーズだって出来るでしょ。」
「否、私だったら最低5秒は要する。」

 ダリルが上がって来ていた。

「それに私は目で文章を追って読むが、君は見た瞬間に全部頭に入っている。」

 恐らくクロエルは自身が話題の中心になりたくなかったのだろう、捜索場所は決まったのか、と尋ねた。 ダリルは5箇所の施設の名前を挙げた。ニュカネンがかねてより怪しいと警戒をしている研究施設だ。いいね、とクロエルは言った。部屋で缶詰になって物品を見ているより外で仕事をしたいのだ。
 ダリルがドーナツと珈琲の朝食を摂りに、隅へ行った直後、クロエルの端末に本部からメールが入った。ライサンダーは、それを見たクロエルが彼らしくもない難しい表情をちらりと浮かべたのを見逃さなかった。

「悪い知らせ?」

 なんとなく小さな声で尋ねると、クロエルが画面を彼に見せてくれた。それを見たライサンダーは一瞬息を呑んだ。

ーーセイヤーズの息子をドームに来るように説得せよ。