2016年10月1日土曜日

出張所 6

 ライサンダーとJJは思わず顔を見合わせた。2人とも同じ女性の顔を思い浮かべていた。いつも台所でエプロンを着けて大鍋の前で笑顔を作っていた優しい小母さん。

「シェイだ!」

 ライサンダーが呟くと、JJも頷いた。 ダリルが、心当たりがあるのか、と尋ねたので、彼等は頷いた。

「台所に住み着いたみたいな小母さんがいたんだ。ラムゼイの農場で唯一人の女の人だった。コロニー人だって言ってた。ラムゼイもジェリーも彼女のことを大切にしていたんだ。」
「だけど、今日の逮捕者に女性はいなかったぜ。」
「ラムゼイがシェイだけ連れて先に出発したんだよ。彼女は住み慣れた家を出るのを嫌がっていたけど、逆らえなかったんだ。」

 クロエル・ドーマーが真面目な表情になって、ダリルに真面目に話しかけた。

「その女性がラムゼイのクローン製造に重要な役割を果たしていますね。ラムゼイは彼女の卵子がなければ高質なクローンを創れないんですよ。それにしても、ラムゼイは彼女を何処で手に入れたのでしょう?」
「ライサンダーが彼女の卵子から生まれたのだとしたら、彼女は私たちと同じ頃に生まれたのだろう。行方不明になったクローン女性の記録がないか調べてみる必要がある。」

 JJがライサンダーにタブレットの文章を見せた。

ーー貴方にもお母さんがいたのね。私はシェイが好き。良い人だもの。

 ライサンダーは苦笑いした。シェイは彼がラムゼイの「作品」だと知っていたが、自分の子供と言う認識はなかった。彼女はあまりにたくさんのクローンの製造に関わったので、母親と言う概念がないのだろう。それに彼女は妊娠したことがない。ライサンダーに母と呼ばれても、恐らく自覚しないはずだ。ライサンダーは彼女を母親と思わないことにした。しかし、一つだけ、彼に安堵を与えてくれた人だと思えた。

 俺も女性から生まれたと言えるんだなぁ・・・

それは、おまえは人間だよと言ってもらえたのと同じ重みをライサンダーに感じさせた。