2016年10月11日火曜日

リンゼイ博士 6

 ダリルが退屈し始めた頃にやっとクロエル・ドーマーとリュック・ニュカネンが学舎から出て来た。クロエルには早速女子学生の取り巻きが出来ており、その後ろをニュカネンが仏頂面で歩いてくる。クロエルは自身の話術で女の子が寄ってくると信じているらしい。マシンガンみたいに喋りまくって彼女達を笑わせている。しかし、ダリルは別の面を見ていた。

 クロエルは本人が気づかないだけで、かなりのイケメンなのだ。

 ドームの中は男性の数が断然多いので、ドーマー達は気が付いていないが、クロエルの容姿は女性が好むタイプだ。もしドームが彼の子孫を残したいと思えば、簡単に希望者が集まるだろう。だが、彼にはそれが出来ない理由がある。クロエル自身が語った父親が不明だと言う事実の他に、母親の家系にも問題があったのだ。
 クロエルの母親は、アンデスに住む絶滅寸前の少数民族の娘だった。ドームは彼女を取り替え子で世に送り出す時に、既に彼女の婚約者を決めていた。絶滅寸前だから選択の余地がなかったのだ。しかし不幸な事件で彼女はクロエルを身ごもり、堕胎した。母親はこの事件がきっかけで婚約者と別れてしまった。彼女はそれきり結婚を諦め、子供を産むこともなく歳を取り、別れた婚約者はドームから許可をもらえず結婚出来ずに歳を取った。
 母親の部族の血を引く子供は、皮肉なことにクロエルだけになってしまったのだ。
「地球人復活プロジェクト」では、出来るだけ少数民族の絶滅を避けることと明記されている。クロエルは「雑種」だが「希少種」でもあるので、ドームは彼の相手を適当にあてがうと言うことが出来ない。遺伝的に問題がない相手で希少民族の血を引くクローンの女性でなければ、クロエルと結婚させられないと「委員会」は考えるのだ。

「おまたせ〜」

 クロエルが女子学生達を追い払いながら車に乗り込んで来た。随分もてるんだな、とダリルがからかうと、ナンパされそうになったと笑いながら言ったが、冗談ではなかった。
運転席に座ったニュカネンが、彼に女子学生から渡された物を提出させたのだ。

「嬉しそうに女の子の住所や番号を集めるんじゃない!」
「僕ちゃんが集めたんじゃありません、向こうが勝手に手に押し込んで来たんです!」
「鼻の下を伸ばしてデレデレしていると、メーカーに攫われるぞ。」
「そんなへましないもん。」

まるで子供の喧嘩だ。ダリルは強引に割り込んだ。

「何か収穫はあったか? 私はトーラス野生動物保護団体に行きたいのだが・・・」

するとクロエルが、

「そこ、この学舎の隣。これから行く所ですよ。」

と言って彼を驚かせた。野生動物保護団体がクローン研究に関係してるのか。 野生動物の多くがクローンの子孫なのかも知れない。