2016年10月1日土曜日

出張所 7

 夕食から戻ると、出張所の中では第1チームが大急ぎで帰り支度をしていた。彼等は昨日の朝からドームの外で任務に就いていたので、もうすぐ抗原注射の効力が切れるのだ。
居残り組にバトンタッチする仕事を仕分けて、自分たちが持ち帰る押収品を車に積み込む。
 ダリルが、ニュカネンとレインはまだ警察から戻らないのかと尋ねると、至極当たり前の返答があった。

「リュックから連絡があって、レインはこっちへ連れてこずにそのままローズタウン空港から飛行機に乗せるので、僕等も早く来いと言われたんです。」

 ポール・レイン・ドーマーの体力は限界に来ているらしい。ダリルは納得した。それで、クロエルに留守を頼んで自身もローズタウンまでジェリー・パーカーの護送をすることにした。ライサンダーに一緒に来るか、と尋ねると、少年は迷った。

「父さんはまたこっちへ戻って来るんだろ?」
「今夜は戻って来る。だが、JJとはここでお別れになるぞ。」

 JJがタブレットに文章を書き込んだ。

ーードームに慣れたら、外に出してもらえると思う。また会えるわ。

「元気でね。」

 ライサンダーは短い間だったが妹みたいに思えるJJを抱きしめた。

「君と暮らせて、本当に愉しかったよ。」

ーー私も面白かった。いつかまた一緒に畑を耕そうね。

 ジェリー・パーカーが車に乗せられた。彼は麻酔が効いたままで、自分が何処へ連れて行かれるのかもわかっていない。
 ふと、ライサンダーはあることを思い出した。とてもささいなことだが、不思議と記憶に残ったことだ。父さん、と彼はダリルに話しかけた。

「トラックで移動していた時のことなんだけど、ジェリーがスキ・・・Pちゃんの手に触れたんだ。そうしたら、Pちゃんが一瞬だけど、怯えた様な顔をした。」
「ポールが怯えた? ジェリーが殺意でも抱いていたと?」
「そんなんじゃないと思う。」

 ライサンダーは未確認だった事実を父に問うた。

「父さん、Pちゃんは手で他人の思考を読めるの?」

 ああ、そんな重要なことをまだ息子に告げていなかったのか、とダリルは自身の失態に気が付いた。自分が知っていることは息子も知っていると思い込んでいた。

「ポールは、手だけじゃない、全身で接触テレパスをやるんだ。だから、体調が悪い時は絶対に他人に触れさせない。コントロールが利かなくて無制限に他人の感情や思考を感じ取ってしまうからだ。だが、快調な時は、必要な情報だけを読み取れる。
 ジェリーに触られて怯えたと言うのは、恐らく、ジェリーが何か尋常でない思考をその時点で抱いていたからだろう。もしかすると、ジェリーが野原に彷徨い出たことと関係があるのかも知れないな。」

 ライサンダーは自分の手を眺めた。

「俺は、Pちゃんの接触テレパスも、父さんの何でも操縦出来る能力も遺伝していないんだなぁ。」
「そんなもの、ない方が良いに決まっている。」