2016年11月6日日曜日

対面 13

 「母御と話しをしたか? 家族と一緒に過ごして愉しかったか?」

 長官が血液採取をしながら質問した。ポール・レイン・ドーマーを引き当てたのは他でもないケンウッド長官だった。ポールは「べつに」と答えた。

「セイヤーズはアメリア・ドッティと一緒にお茶をしたのに、俺は婆さんの相手ですよ、不公平です。」

 ケンウッドは、ドーマー以外の何者でもない男を眺めた。そろそろ妻帯させて子孫をどんどん創らせようと思っているドーマーに家庭の味を教えたかったのだが、無駄だったようだ。彼は催淫剤の注射をポールに打って、「終わったらいつもの手順で帰りなさい」と言い残して部屋を出て行った。ポールはベッド周辺のエロ本やらアダルトヴィデオのセットを眺めて溜息をついた。せめてラナ・ゴーン副長官に引き当てて欲しかったな、と思った。

 ダリル・セイヤーズ・ドーマーは不幸だった。彼を引き当てたのは彼を疫病神の様に恐れるアナトリー・ギルで、ギルはダリルに近づけなかった。そしてこともあろうに友人の執政官に電話を掛けて部屋に来てもらった。これは明らかに規則違反だ。しかし、ダリルは早く終わらせたかったので、食堂で2,3回見かけたことがある、そのジュリアン・ナカイと言う執政官に血液採取をさせ、催淫剤を打たせた。その時、ナカイは催淫剤に微量の麻酔剤も混ぜた。
 ダリルはギルもナカイもなかなか部屋から出て行かないので不審に思い始めた。ナカイがベッドに座る彼の隣に腰を下ろした。

「悪く思わないでくれ。ギルがどうしても君が恐くて、作業が出来ないと言うのでね。」

 ダリルはナカイに押し倒され、抑えつけられた。ナカイがギルを叱咤激励した。

「抑えておいてやるから、早く済ませろ。時間を掛けすぎると上から不審に思われるぞ。」

 そんなことをしなくても放っておいてくれれば自分でやれるのに、とダリルは思った。こいつらは楽しんでいるのだ。ナカイが彼の顔を撫でたり、キスをしたりするのを黙って我慢した。麻酔剤は眠るところ迄の量ではなかったので、頭がぼんやりしただけだ。ギルがぐずぐずするので、ナカイが腹を立て始めた。

「容器を貸せ! 僕がする。」

 ナカイの手が下腹部に触れた瞬間、ダリルの堪忍袋の緒が切れた。
ナカイはベッドから蹴り落とされ、ギルは壁際に逃げた。ダリルはぼんやりする頭のまま、起き上がった。

「私が本気で腹を立てる前に部屋から出て行ってくれないか? 後の手順は充分に知っているから!」

 ギルとナカイは慌てて部屋から出て行った。ダリルはベッドに座って、フーッと大きく息を吐いた。彼が採った「手順」は、気分が悪くなった時のナースコールだった。
手が空いていた他の執政官達が駆けつけると、彼はベッドに寝転がって眠っていた。