翌朝、朝食会で打ち合わせを終えたところに、ダリルの端末にJJからメールが入った。おはよう、と言う挨拶の後に続く文を見て、ダリルは「しまった」と呟いた。ポールが横から覗いて、見なかったふりをした。
ーーおはよう、ダリル父さん。 昨日は私の18歳の誕生日だったの。
ダリルは返信した。
ーーおはよう、JJ。御免、君の誕生日を忘れていた。おめでとう! プレゼントは何が良いかな?
その返事はすぐに来た。
ーープレゼントは要らない。昨日、ドームから凄いのをもらったから。父さんには、一緒にランチして欲しいな。
ドームからの凄いプレゼントとは何だろう? と思いつつ、ダリルは予定をチェックした。ランチの約束をするのに特に問題はなさそうだ。
ーー12時にどう? 場所は君が決めると良いよ。
ーーそっちへ行くわ。 今日はPちゃんなしよ。
珍しいこともあるもんだ、と思いつつ、ダリルは承諾した旨を送信してメール会話を終えた。
ポールは食事も打ち合わせも終わったので、食器を返却カウンターへ持って行くところだった。ダリルも空になった食器を持って追いかけた。
「昨日はJJの誕生日だったんだ。」
と声を掛けると、ポールはふーんと興味なさそうな反応をした。
「今日はランチの約束をしたんだが、君は必要ないって言われた。」
「俺はかまわない。昼頃にローズタウンからクーパー元ドーマーが到着するだろうから、彼と一緒に昼を摂ることにする。用があれば俺の方から連絡する。それまでJJと過ごせば良い。」
妙にものわかりの良い大人の反応に、ダリルは少しがっかりした。JJが好きなはずなのに、この冷たい態度は何だ? それにJJも素っ気なかった。ポールとJJの間で何かあったのか?
その後のオフィスにおいても、ポールはJJの話題には一切触れなかった。いつも通り面会希望への返事や登録申請の許可証発行やら、事務仕事をダリルと手分けしてこなした。途中でクラウス・フォン・ワグナーに電話を掛けて、クーパー元ドーマーとの面会に参加せよと指示を出しただけで、後は平凡な日常が過ぎた。外に出て支局巡りをしている部下達からの報告も特に問題のない内容だった。
昼休みになって、ダリルは先にオフィスを出て、食堂へ急いだ。
JJは1人だった。いつもの様にダリルを見つけると、ダッシュして来て、抱きついた。他のドーマー達は既にこの光景には慣れていて、驚かない。
ダリルは改めて、「お誕生日おめでとう!」と言った。JJは明るい笑顔で答えた。
2人は食堂に入り、窓のそばの席を取った。
「ドームからの凄いプレゼントって、何だったんだい?」
ダリルの質問にJJは意味深に微笑んだ。脳波翻訳機の電源を切っているので、端末にメッセージを入れた。
ーーPちゃんとデートした。
ああ、とダリルはようやく合点がいった。だから、昨日ポールは疲れていたのか。
「彼は君を退屈させなかった?」
ーーとっても素敵だった。いろんなことを教えてくれたわ。
「いろんなこと?」
ーー検体採取の方法とか
ダリルはもう少しで食べ物で喉が詰まりそうになった。水で流し込んで、恐る恐る尋ねた。
「検体って?」
ーードーマーが提供するものよ。
「まさか・・・『お勤め』の?」
ーー他に何があるの?
ダリルは目眩がした。ポールは18歳の少女に何を教えたのだ? それがデートなのか?
JJが続けた。
ーー『お勤め』が終わってから、私の部屋へ行ったの。お昼も食べずに2人でベッドで過ごしたわ。
「お誕生日ドーマー」だ。ダリルはやっと理解した。ポールは拒否出来なかった。だから、彼女に恥をかかせまいと、大人の愛の営みを教えたのだ。多分、催淫剤が効いていたせいもあるだろうが・・・。
ダリルは気を静めようと、もう1度水を飲んだ。
「彼は、優しくしてくれたかい?」
ーー私を壊れ物みたいに丁寧に扱ってくれたわ。でも、最後までは駄目だって。ちゃんと正式の許可がないと駄目だって言うの。
ダリルはホッとした。ポールは一線を守ったのだ。ポールらしいとも言える。ドームの許可がなければ結婚しない。遺伝子管理局の幹部として節度を守って、JJを大事に思っていると示したのだ。それがJJに伝わっているだろうか?
「彼は、みんなから祝福してもらって君と結ばれる方を希望しているんだよ。君は待てるかな?」
18年前、ポールの「待て」を理解出来ないで、待てないで、脱走してしまったダリルは、JJに彼を誤解して欲しくなかった。JJが真っ直ぐに彼を見つめた。
ーー父さんは、Pちゃんが私を選んでくれると思う?「お誕生日ドーマー」じゃなしに?
「思うよ。だって、彼は君が彼に触っても怒らないだろう? 全身に触れても平気にしていただろう?」
ーーうん。私が撫でると気持ち良さそうに寝ちゃったわ。
デートで寝たのか、あいつ・・・。ダリルは焦って損した気分になった。JJは純粋にポールが好きだから、ポールも安心して身を任せてしまったのだろう。
「昼寝しただけかい?」
ーー後でお菓子を食べて、テレビで映画を見たわ。それから、彼がお仕事のことを気にしたから、解放してあげたの。
今度はJJの方から質問してきた。
ーー彼は何か言った? 私のこと、つまらないって言わなかった?
「彼は何も言わなかった。『お誕生日ドーマー』の掟を守ったんだ。だから、私もさっきの君のメッセを見なかったことにする。」
ダリルは優しく付け加えた。
「ポールは君を本当に気に入っているんだよ。彼が肌に触れるのを許す人間なんて、医者ぐらいなもんだ。君は自信を持って良いんだよ。」
ーー有り難う!
JJは席を立って、ダリルのそばに来ると、もう1度抱きついた。
愛情表現の軽いキスをいっぱいしてから、彼女はメッセージを入れた。
ーーもうすぐお誕生日の執政官が5人いるの。父さんも選ばれるかもね!
ーーおはよう、ダリル父さん。 昨日は私の18歳の誕生日だったの。
ダリルは返信した。
ーーおはよう、JJ。御免、君の誕生日を忘れていた。おめでとう! プレゼントは何が良いかな?
その返事はすぐに来た。
ーープレゼントは要らない。昨日、ドームから凄いのをもらったから。父さんには、一緒にランチして欲しいな。
ドームからの凄いプレゼントとは何だろう? と思いつつ、ダリルは予定をチェックした。ランチの約束をするのに特に問題はなさそうだ。
ーー12時にどう? 場所は君が決めると良いよ。
ーーそっちへ行くわ。 今日はPちゃんなしよ。
珍しいこともあるもんだ、と思いつつ、ダリルは承諾した旨を送信してメール会話を終えた。
ポールは食事も打ち合わせも終わったので、食器を返却カウンターへ持って行くところだった。ダリルも空になった食器を持って追いかけた。
「昨日はJJの誕生日だったんだ。」
と声を掛けると、ポールはふーんと興味なさそうな反応をした。
「今日はランチの約束をしたんだが、君は必要ないって言われた。」
「俺はかまわない。昼頃にローズタウンからクーパー元ドーマーが到着するだろうから、彼と一緒に昼を摂ることにする。用があれば俺の方から連絡する。それまでJJと過ごせば良い。」
妙にものわかりの良い大人の反応に、ダリルは少しがっかりした。JJが好きなはずなのに、この冷たい態度は何だ? それにJJも素っ気なかった。ポールとJJの間で何かあったのか?
その後のオフィスにおいても、ポールはJJの話題には一切触れなかった。いつも通り面会希望への返事や登録申請の許可証発行やら、事務仕事をダリルと手分けしてこなした。途中でクラウス・フォン・ワグナーに電話を掛けて、クーパー元ドーマーとの面会に参加せよと指示を出しただけで、後は平凡な日常が過ぎた。外に出て支局巡りをしている部下達からの報告も特に問題のない内容だった。
昼休みになって、ダリルは先にオフィスを出て、食堂へ急いだ。
JJは1人だった。いつもの様にダリルを見つけると、ダッシュして来て、抱きついた。他のドーマー達は既にこの光景には慣れていて、驚かない。
ダリルは改めて、「お誕生日おめでとう!」と言った。JJは明るい笑顔で答えた。
2人は食堂に入り、窓のそばの席を取った。
「ドームからの凄いプレゼントって、何だったんだい?」
ダリルの質問にJJは意味深に微笑んだ。脳波翻訳機の電源を切っているので、端末にメッセージを入れた。
ーーPちゃんとデートした。
ああ、とダリルはようやく合点がいった。だから、昨日ポールは疲れていたのか。
「彼は君を退屈させなかった?」
ーーとっても素敵だった。いろんなことを教えてくれたわ。
「いろんなこと?」
ーー検体採取の方法とか
ダリルはもう少しで食べ物で喉が詰まりそうになった。水で流し込んで、恐る恐る尋ねた。
「検体って?」
ーードーマーが提供するものよ。
「まさか・・・『お勤め』の?」
ーー他に何があるの?
ダリルは目眩がした。ポールは18歳の少女に何を教えたのだ? それがデートなのか?
JJが続けた。
ーー『お勤め』が終わってから、私の部屋へ行ったの。お昼も食べずに2人でベッドで過ごしたわ。
「お誕生日ドーマー」だ。ダリルはやっと理解した。ポールは拒否出来なかった。だから、彼女に恥をかかせまいと、大人の愛の営みを教えたのだ。多分、催淫剤が効いていたせいもあるだろうが・・・。
ダリルは気を静めようと、もう1度水を飲んだ。
「彼は、優しくしてくれたかい?」
ーー私を壊れ物みたいに丁寧に扱ってくれたわ。でも、最後までは駄目だって。ちゃんと正式の許可がないと駄目だって言うの。
ダリルはホッとした。ポールは一線を守ったのだ。ポールらしいとも言える。ドームの許可がなければ結婚しない。遺伝子管理局の幹部として節度を守って、JJを大事に思っていると示したのだ。それがJJに伝わっているだろうか?
「彼は、みんなから祝福してもらって君と結ばれる方を希望しているんだよ。君は待てるかな?」
18年前、ポールの「待て」を理解出来ないで、待てないで、脱走してしまったダリルは、JJに彼を誤解して欲しくなかった。JJが真っ直ぐに彼を見つめた。
ーー父さんは、Pちゃんが私を選んでくれると思う?「お誕生日ドーマー」じゃなしに?
「思うよ。だって、彼は君が彼に触っても怒らないだろう? 全身に触れても平気にしていただろう?」
ーーうん。私が撫でると気持ち良さそうに寝ちゃったわ。
デートで寝たのか、あいつ・・・。ダリルは焦って損した気分になった。JJは純粋にポールが好きだから、ポールも安心して身を任せてしまったのだろう。
「昼寝しただけかい?」
ーー後でお菓子を食べて、テレビで映画を見たわ。それから、彼がお仕事のことを気にしたから、解放してあげたの。
今度はJJの方から質問してきた。
ーー彼は何か言った? 私のこと、つまらないって言わなかった?
「彼は何も言わなかった。『お誕生日ドーマー』の掟を守ったんだ。だから、私もさっきの君のメッセを見なかったことにする。」
ダリルは優しく付け加えた。
「ポールは君を本当に気に入っているんだよ。彼が肌に触れるのを許す人間なんて、医者ぐらいなもんだ。君は自信を持って良いんだよ。」
ーー有り難う!
JJは席を立って、ダリルのそばに来ると、もう1度抱きついた。
愛情表現の軽いキスをいっぱいしてから、彼女はメッセージを入れた。
ーーもうすぐお誕生日の執政官が5人いるの。父さんも選ばれるかもね!