2016年11月12日土曜日

暗雲 2

 翌日、ラナ・ゴーンはポール・レイン・ドーマーの「お勤め」を引き当ててしまった。
今回は団体ではなく、個人別だから、当たる確率はかなり低かったのだが。
 ポールは見た目は健康そのものだったが、血液を採取して最初の基礎数値を見ると白血球数がかなり多かった。ラナ・ゴーンはそれが何を意味するのか即座に理解した。

「抗原注射を打つ間隔が短過ぎない、レイン?」
「最近は内勤を増やしていますが?」
「では、過去に打ち過ぎたのが、今になって影響してきているのよ。チーフは内勤だけでも務まる仕事なのだから、もっと体を休ませなさい。」

 ポールは肩をすくめて見せただけだった。そろそろ「通過」をさせた方が良いかも知れない、と副長官は思った。抗原注射無しでドームの外に出られるように、故意に無難な細菌感染を経験させるのだ。軽い発熱やら咳やらもろもろの風邪の症状を経験する程度だが、ドーマー達はこれを恐怖の儀式の様に考えている。
 「通過者」は外から帰ると本人が気づかない細菌を持ち帰る率が高いので、帰投の際の消毒がより入念になる。これもドーマー達には煩わしく思えるのだ。
 血液検査の次は催淫剤投与だ。彼女が注射の為に腕に触れた時、ポールは尋ねた。

「セイヤーズをどう思われます?」

 ラナ・ゴーンは手を止めた。彼の腕をつかんだまま、彼の顔を見た。

「どう意味かしら?」
「彼を男性として見てやってくれませんか?」
「見ているわよ。」
「その様ですね。」

 ポールが珍しく目で笑った。ラナ・ゴーンはハッとした。手を彼の腕から離したが、時既に遅しだ。接触テレパスの男が言った。
 
「彼に諦めるなと言っておきます。」
「レイン・・・それはないわ。」
「昨晩から、彼はずっとしょげているんです。貴女に嫌われたのではないかと心配して。」
「貴方は彼を女性に盗られて嫌じゃないの?」
「俺たちは、そんな脆い仲じゃないですよ。」
「・・・わからないわ。」

 彼女は平素を装って彼に注射を打った。ポールは室内に置かれている本や画像ソースを眺めた。いつもの空しい努力の時間だ。
 ラナ・ゴーン副長官は薬品や注射器などの道具を片付けて、少し考えた。

「女性が割り込んでも崩れる仲じゃないと言うのね。」

 ポールは彼女が急にニコリと笑ったので、少し驚いた。彼女が優しく言った。

「ちょっと待っててね。今日は特別ですよ。」