2016年11月3日木曜日

対面 3

 テラスは斜面に張りだして造られており、眺望抜群で、温かい日差しに包まれていた。パラソルの下に、車椅子に座った元上院議員ポール・フラネリーと、すらりと立ったアーシュラ・R・L・フラネリーがいた。アメリアが客を伯母夫婦に紹介した。

「こちらは、私の命の恩人のミスター・ダリル・セイヤーズ、伯母様はもうお会いになられているわね。それから、こちらはミスター・セイヤーズの上司の、ミスター・ポール・レイン。」

 ポールの名前を聞いて、アーシュラがダリルを見た。ダリルは小さく頷いて見せた。
元上院議員が手を伸ばしてきた。

「ようこそ、我が山荘へ。かねてからお噂は聞いていますぞ。近頃の姪は貴方方の話ばかりで、アルバートにヤキモチを焼かせて困っております。」
「こちらこそ、嫌な用件でお伺いして申し訳ありません。しかし、容疑者リストから皆さんを外す目的ですから、どうぞご容赦を。」

 ダリルとポールはそれぞれ元上院議員と握手した。ポールは能力を使用したはずだが、特にその表情に変化はなかった。政界を引退し、俗世からも遠ざかって療養生活をしている元上院議員は「シロ」だったに違いない。つまり、ポールは握手した瞬間に、ちゃっちゃと仕事を済ませてしまったのだ。
 次はアーシュラの番だ。ダリルが先に彼女に挨拶した。

「いつも嫌な用件をひっさげて現れてしまい、申し訳ありません。」

 アーシュラは微笑んだ。

「いいの、気にしないで。貴方は誠実だわ。」

そしてポールを振り返った。

「初めまして、ポール・レイン・ドーマー。」

一般人に「ドーマー」と呼びかけられて、ポールは少し驚いた。しかし、大統領の身内ならドームの慣習なども知っているだろうと思いつつ、彼女と握手した。
アーシュラが優しい笑みを浮かべてポールを見つめている。ダリルはポールの表情を盗み見たが、ポールは何の変化も示さなかった。

 接触テレパスの使い方はアーシュラの方が一枚上手なんだ!

 アーシュラは何も知らない息子を驚かせまいと自らの情報をセーブしているのだ。先刻握手の際に「ドーマー」と呼びかけたのも、ポールを戸惑わせて彼に能力を使わせないよう手を打ったのだ。
 ポールは手順通り、「尋問」を開始したが、握手でフラネリー夫妻がラムゼイのシンパとは無関係だと確信してしまったので、失礼な質問は出なかった。彼にしては珍しい程大人しい仕事振りだった。
 老夫婦の面談が終わる頃になって、大統領ハロルド・フラネリーとファーストレディが登場した。お忍びで実家に来ているのだ。大統領はテレビやネットで見るより若々しく、エネルギッシュで、しかし想像していた程尊大ではなかった。彼も夫人も握手でポールを安心させた。接触テレパスは、X染色体上にのみ因子が存在する。女性に発現する場合は、X染色体の2つ共が因子を持つので、その息子は必ず接触テレパスだ。つまり、大統領も・・・

「妹が1人いるのだが、今仕事でスイスに住んでいるんだ。彼女も面談が必要かね?」
「いえ、それには及びません。現在国内にいらっしゃるご家族だけで結構です。」
「宜しい。君達の仕事の話をもう少し詳しく聞きたいのだが、書斎に場所を移さないかね?」

と大統領が提案してきた。彼は、母親と妻を振り返った。それから妹同然の従妹のアメリアに、

「君の大事な客人を少しの間お借りして良いかな、アメリア?」
「大統領閣下には逆らえませんわ。」

アメリアが笑って答えた。大統領は2人のドーマーに向き直った。

「ドームと言う不思議な魔法の城の話を聞かせてくれないか?」