2016年11月28日月曜日

囮捜査 6

 夕食は静かだった。ダリルは落ち込んでいたし、ポールも任務が失敗で終わったのでどちらも口数が少なかった。それでも、翌日は抗原注射の効力切れで食欲が落ちることがわかっているので、ポールはしっかり食べ物を胃に入れておいた。ダリルは落ち込んでいても本人に何か食べようとする意志はあるみたいで、腹持ちのする脂っこい物を食べた。
 食事が終わると、ダリルは「先に帰って寝る」と言って席を立とうとした。ポールがその手をそっと押さえた。ダリルは仕方なく局長との会話を心の中で再現した。

「俺は局長に賛成だな。」

とポールが呟いた。

「ごり押しするつもりはないさ。」

 ダリルはそう言って、手を引っ込めると立ち上がり、食器を返却して食堂を出て行った。その後ろ姿を見送ってから、ポールは端末を出した。
ジェリー・パーカーにメールを送りたかったが、ジェリーは未だ端末携行を許可されていないので、監視役の保安課アキ・サルバトーレにメールを打った。

ーーパーカーに伝言を頼む。『余計なことをセイヤーズに吹き込むな』

と打ってから、暫く彼は画面を眺め、メッセージを消した。もう1度打ってみた。

ーーパーカーに伝言を頼む。『おやすみ』とレインが言っていたと伝えてくれ。

 恐らく利口なジェリー・パーカーはそれだけでポールが言いたいことを理解するだろう。
 メッセージを送信して、暫く彼は1人でお茶を飲んでいた。彼のファン達が周囲でなんとかして彼に話しかけられないかとそわそわしていたが、いつもの如く無視した。
テーブルの4つ向こうを小さな掃除ロボットが移動していくのが見えた。それを眺めてから、ふと思いついてJJにメールを送った。

ーー今夜会えないか?

1分ほどして返事が来た。

ーー今日はもうご飯を済ませたわ。
ーー俺も終わった。話をしたい。
ーー難しい話?
ーー否。何でも良い。話をしたいだけだ。
ーー女性棟だから貴方は入れないわ。夜の1人歩きは駄目だって言われてる。
ーー玄関口でかまわない。これから行く。

 返事は見ずに食堂を出た。彼が真っ直ぐ女性用観察棟に行くのを、すれ違った人々が不思議そうに見送った。
 JJはドアのすぐ外で待っていた。ポールは「やあ」と声をかけ、彼の方から彼女をハグした。JJがちょっとびっくりしていると、彼は彼女を離してから、言った。

「今日の出来事を聞いてくれないか? 退屈だったら直ぐに止めるから。」