2016年11月6日日曜日

対面 9

 モスコヴィッツは平静を装った。

「彼はいろいろ面白い話を聞かせてくれたよ。クローン製造の方法や、過去に出遭った珍しい人物のことやら・・・」

 彼は椅子を勧め、飲み物も勧めたが、ポールは断り、ダリルに「飲むなよ」と釘を刺した。

「彼が20年近く前に出遭った遺伝子管理局の男も面白い冗談だったよ。」

 モスコヴィッツが思い出し笑いをした。

「なんと、メーカーに子供を発注したそうだ。しかも、男同士の間の子供でね!」

 ダリルは笑えず、ポールが代わりに笑ってくれた。

「それは大した冗談ですな。そのメーカーは注文を受けたのですか?」
「そこまでは聞いていない。」
「遺伝子管理局はいかなる違反も逃しません。そんな話は私の耳に入っていませんから、全くのホラ話ですよ。」
「だろうな・・・」

 モスコヴィッツは時計を見た。自分は忙しいのだと態度で示した。ドーマー達は無視した。

「ラムゼイとは、そんな他愛ない話ばかりしていたのですか?」
「勿論、野生動物の復活と保護に関する議論もした。」
「重力サスペンダーの修理の話もなさったのですね?」
「あの機械は彼の体の一部同然だったからね。」
「それで、秘書氏にバネの注文をさせたのですか?」
「何のバネかな?」
「重力サスペンダーのバッテリーボックスのバネです。」
「私はあの機械に触れたことがないので、どんな物か知らない。」
「でしょうね。」

 ポールがダリルを振り返った。

「そろそろお暇しよう。」

 ポールは握手で何かを掴んだのだ。屋敷の外に出ると、待機していた部下に撤収の合図を送った。運転はダリルに任せ、車内で別行動のクラウスに電話を掛けた。クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーは理事のビューフォードを訪ねていた。

「法律の専門家相手に尋問はしんどいですよ。」

 クラウスが苦言を呈した。

「何か出たのか?」
「ラムゼイが泊まっていた部屋を捜査しました。死んだ日の朝迄そこに居たんです。クローンに関する資料を数10点押収しましたが、どうも内容は平凡です。大事な物はビューフォードが盗んだようです。」
「こっちも期待はしていなかった。しかし、収穫はあったぞ。」

 ポールはクラウスに、ナショナル・イースト銀行のローズタウン支店へ行けと命じた。通話を終えた彼にダリルが尋ねた。

「銀行? 口座を見るのか?」

ポールがニヤリとした。

「貸金庫だよ、セイヤーズ君。」