2016年12月23日金曜日

誘拐 10

 裏口から外に出ると、待機していた出張所の車にタンを乗せ、ダリルも乗り込んだ。クラウスとクロエルは表玄関でトーラス野生動物保護団体の職員と警察官相手に頑張っているポール・レイン・ドーマーに加勢する為に、そこでダリルと別れた。
 2人が玄関に行くと、理事長のモスコヴィッツが来ていた。ポールと殆ど口論になっていたが、ビルの中からドーマーが2人現れたのを見て、口をつぐんだ。クロエルがモア兄弟のIDを見せた。

「ビルの中にFOKの一味と黙される男2人が寝ているんだけど、何なのかなぁ?」
「寝ている?」
「うん、多分お昼迄寝てると思うよ。」

 ポールは2人の仲間を見た。手を触れなくても、無事にパトリック・タン・ドーマーを保護してダリルが出張所に向かったのだとわかった。
 クラウスが警察官に言った。

「中で倒れている男達は銃を僕たちに向けて発砲した。幸い壁が防弾ガラスだったので、僕等は助かった。何故遺伝子管理局の職員に発砲したのか、訊いてくれないか?」

 警察官は、クラウスがスーツ姿ではなく私服なので、訝しげな顔でポールを見た。
ポールはすまし顔で説明した。

「臨検に望む時は私服で行うこともある。相手を油断させる必要がある場合だ。」
「霊長類の資料室に人間が縛られていたんですが、どう言う訳でしょうか?」

 クラウスは縛られているタンを撮影した端末の画像を警察官にではなく、モスコヴィッツに見せた。理事長はうろたえた。

「それは・・・」

そこへ、クロエルが知っている刑事が到着した。ラムゼイ殺害事件を捜査しているスカボロ刑事だ。彼はポールとは初対面だったので、取り敢えずクロエルに「やあ」と声を掛けた。

「また遺伝子管理局とトーラス野生動物保護団体が揉めているのかい?」
「三つ巴っすよ。FOKもいるんす!」
「何!FOKだって?!」

 クローン収容所襲撃と子供誘拐の組織の名前が出て、警察は色めき立った。

「ここで口論してないで、中に来てよ。」

 クロエルはポール、スカボロ、モスコヴィッツに手招きした。