2016年12月4日日曜日

囮捜査 12

 私服に着替えたポール・レイン・ドーマーとダリル・セイヤーズ・ドーマーと共に彼等の部屋から出たラナ・ゴーン副長官は、同じくチーフ会議の後、少し昼寝をしていたクロエル・ドーマーとアパートの通路で出遭った。

「あれまぁ、変わった組み合わせだこと!」

とクロエルが呟いた。ダリルが声を掛けた。

「これから夕食に行くんだが、君も一緒にどう?」
「うーーん・・・」

 クロエルは3人組の内容を少し考えて、ま、いいか、と呟いた。彼はさっとラナ・ゴーンに近寄ると彼女の腕を取った。

「おっかさんには僕がエスコートに付きますよ。変な噂にならずに済むでしょ?」
「一体、貴方は何に気を回しているの?」

 ラナ・ゴーンが笑うと、ポールもダリルをチラリと見て、

「俺に此奴と腕を組めってか?」
「私はかまわないぞ、ポール。」
「止せよ、俺の腕は女性に取ってあるんだ。」

 4人は一般食堂へ脚を向けた。アイドルと恋人、副長官におちゃらけドーマーの珍しい取り合わせにそこに居た人々が少し興味を持って注目したが、彼等は気にせずに食べ物を銘々取ってテーブルに着いた。ダリルはクロエルは極秘事項を知っているのだろうかとふと思ったが、この南米人は知っていても決して顔にも口にも出さないだろう。

「もうすぐクリスマスですよね。」

とクロエルが不意に言った。宗教的行事はドームにはないのだが、楽しいお祭りは子供のドーマーの為に採用されていて、大人になっても彼等は真似事をする。クリスマスはプレゼントの交換行事とご馳走の日だ。
 クロエルはラナ・ゴーンに尋ねた。

「今年は月に行かないんですか?」
「上の娘が木星コロニーに行って当分帰らないのよ。だから、クリスマスは今年はしないの。」
「でも、下の娘さんはおっかさんに会いたいでしょ?」
「彼女がこっちへ来るわ。」

 えっ! と男達が驚いた。好んで地球に来る女性は珍しい。地球人や地球の文化を研究している人間を除けば、汚染された星に来たいとは思わないだろう。

「娘達ももう良い歳なのよ。子供の心配をしなくても済む年齢ですからね。」
「では、お孫さんも一緒に?」
「3人、小さいのが付いてくるわ。」

 ラナ・ゴーンは、家族と言うものをドーマー達に見せたかった。特に、結婚する気がないクロエルと、結婚の意味をイマイチ理解していないポールに。
 ダリルは養育棟以外で幼子を見られるのかと期待している。好きな女性が誰かの母であり祖母であると言う事実は意識していない。
 ラナ・ゴーンは話題を男達に向けた。

「貴方達は誰かに贈り物をする予定でもあるの?」
「いいえ。」
「ありません。」
「僕ちゃんも・・・」

 彼女は3人の男達を見比べた。

「好きな女性とか、親しい友達とか、いないの?」

 ポールがダリルとクロエルを見た。

「贈り物は欲しいか?」
「別に・・・」
「全然・・・」
「俺もだ。」
「セイヤーズ、貴方は子供に何も贈らなかったの?」
「欲しがる物はその時々に与えましたから・・・」

 ポールはJJに贈り物をする考えすらないようだ。ダリル父さんも娘に何か贈ろうと思いつかないらしい。だから、ラナ・ゴーンは仕方なく教唆した。

「JJは期待していると思うわ。」

 あっと男達。

 もう・・・馬鹿なんだから。

ラナ・ゴーン副長官はわざと溜息をついて言った。

「女性がいない世界って、これだから駄目よね。」