2017年1月3日火曜日

誘拐 26

 「やぁ、元気にしてるか?」と挨拶して、スカボロ刑事はすぐに用件に入った。世間話をして時間を取ると、ドームの交換機に一方的に切られた経験があるからだ。

「ラムゼイが雇っていたコックの行方を捜していただろう?」
「シェイと言う女性だ。彼女の消息がわかったのか?」

 シェイの名を聞いて、ジェリー・パーカーとJJが聞き耳を立てた。

「写真がないのではっきりとは言えないが、モンタージュの顔に似た女性を見つけた。リトル・セーラムと言う小さな町の食堂で働いている女なんだが・・・」
「食堂で働いている?」

 ダリルは地図を頭に思い浮かべてみたが、リトル・セーラムと言う町は彼の記憶の中には存在しなかった。

「リトル・セーラムはうちの署の管轄じゃないんだ。うちの管内で配っていたポスターを見たトラック運転手からの情報なので、ガセの可能性もある。」
「誰も確認に行っていないのか?」
「コックの女本人に会ったことがある人間がいないんだよ。誰が確認するよ?」
「捕まえたラムゼイの手下に確認させられないのか?」
「連中はみんな公判待ちでローズタウンにいる。連れ出すには、連邦捜査局の許可を取らなきゃならん。不確かな情報だし、コックの女は指名手配されている訳じゃない。只の行方不明者扱いだ。連邦捜査局には無視されるに決まってるさ。」
「わかった。遺伝子管理局にその情報を伝えておくよ。連絡を有り難う。」

 ダリルが電話を切ると、JJが尋ねた。

「シェイは無事なの?」
「まだシェイなのか、別の人なのか、わからないんだ。」

 ダリルはジェリーに向き直った。

「シェイがリトル・セーラムと言う町の食堂で働いている可能性はあるか? 私はラムゼイが彼女をトーラスの誰かに預けたままになっていると思っているのだが・・・?」

 ジェリーは考え込んだ。

「台所仕事はシェイの命だからな・・・食堂で働いていても俺は驚かない。だが、誰が来るかわからない町中の食堂に彼女がいるとは信じがたい・・・博士はジェネシスの彼女を大切にしていたから。」
 
 こんな時、ポールだったらどうするだろう? ダリルはこんな時にぶっ倒れた親友を恨めしく思った。シェイは、ラムゼイのクローン製造に重要な役割を果たした女性であり、卵子提供者としてライサンダーの母親でもあるのだ。ドームは彼女をどう評価しているのだろうか。

「もし、私がその食堂で働いている女性に会って、端末の映像電話で君達と彼女を面会させたら、彼女がシェイなのかどうか、わかるだろうか?」
「その女がシェイなら、俺のことはすぐわかるはずだ。」

 ジェリーが自信たっぷりに言った。JJは

「私は彼女の顔を知っている。でも塩基配列は実際に見ないと見えない。」

と言った。それからジェリーとJJは同じ心配をした。

「外に出られるのか、セイヤーズ?」
「ダリル父さん、外出は駄目なんじゃない?」