2017年1月8日日曜日

誘拐 31

「私が女を生めるかどうかなんて、君に何の関係があるんだ?」
「ダウン教授と手を結んだ時は、おまえを捕まえるのが条件だった。あの婆さん教授は、女のクローンが欲しいからな。イケメンのおまえだったら、クローンの父親に最適だと思ったんだろう。」
「今、ここで罠を張って私を待っていたのは、どう言う了見からだ? 私が来るとは限らないだろうが?」
「出張所のオッサンが来ると思ったんだ。あいつも元ドーマーだろ? アイツを人質に、警察に捕まったモア兄弟と交換してもらおうと思ったんだがな・・・おまえの方が価値がありそうだ。」
「警察は私の価値なんて知らないさ。それに人間の価値なんて、誰が上とか下とか、そんなんじゃない。」
「説教は要らねぇよ!」

 野球帽の男は戸口に体を晒し、銃を連射した。拳銃から自動小銃に変わっている。ダリルは配膳台の陰で身を縮めた。

「君はまだ子供だなぁ・・・」

 彼は相手の正体に思い当たった。

「16歳で医学博士になっても、人間としての器は未完成なんだ。髭を生やしても、大人になりきれていない。」

 相手の返答は再びの連射だった。ダリルは、何故自分は余計な口を利くのかなと後悔した。
 床の上には割れた食器が飛び散っていた。ダリルは後ろを見た。ドアが2つあった。大きい方は勝手口だが、そこ迄行くには、銃弾をかわして走らねばならない。それに、あの勝手口は開くのか?
 小さい方のドアは、隣室と言うより、倉庫の入り口の様だ。食品庫かワインセラーか?
中に避難しても、果たして身を守れるだろうか?

「ニコライ・グリソム!」

 ダリルは相手に呼びかけた。連射が止んだ。

「蜂の巣にされる前に、一つだけ教えてくれ。モア兄弟はトーラス野生動物保護団体ビルに捕まっていたドーマーに何の用があったのだ?」
「あいつら、喋らないのか?」
「口が無くなったみたいに黙秘している。」
「ふん! 頑張って黙る様な理由じゃない。クローンの死体を献体置き場に置いて部屋から出る時に、あのドーマーに顔を見られたそうだ。ただの口封じだ。トーラスの連中に罪をなすり付ける目的だったからな。FOKが置いたとトーラスに知られたくなかったのさ。」

 ダリルは、戸口の向こうのカウンターの上にガラス製の円筒容器が置かれていたことを思い出していた。何の容器かわからないが、空だったと思う。戸口横のこちら側の壁に鏡があった。

 この小説の作者は物理は赤点だったが、取り敢えず、やってみよう・・・

「出張所所長を人質にしてモア兄弟を取り返さなきゃならんとは、FOKも人材不足なんだな。」
「何を!」

 グリソムがまた撃ってきた。ダリルは斜め下から鏡を撃った。