2017年2月12日日曜日

大嵐 17

 午後4時頃になって仕事を終えたダリルとポールはライサンダーをジムへ連れて行った。筋トレで準備運動をしてから、ポールは息子を格闘技場へ案内した。

「少し暴れてみるか?」

 ライサンダーは父親達が彼の頭から事件の記憶を消そうと努力していることがわかっていた。明日は嫌が上でも警察相手に事件の話をしなければならない。だから今日1日はリラックスさせたいのだ。落ち着いて事情聴取を受けられるように。
 ライサンダーは遠慮無くポールを相手に組み合った。勝てると思ったが、ポール・レイン・ドーマーは甘くなかった。彼は投げ飛ばされ、組み伏せられ、転がされた。
夢中になっていたら、いつの間にか北米南部班の部下達が集まって来た。出張に行かなかった2チームで、第3チームはライサンダーもセント・アイブスで顔馴染みになったメンバーだ。彼等は事件のことを知っていたが、一言も触れずにライサンダーに勝負を挑んできた。ライサンダーは逃げなかった。順番にドーマー達を相手にして、勝ったり負けたりして体を動かすことを楽しんだ。中には彼に闘い方を教える者もいた。
 息子が格闘技に夢中になっているのをダリルは休憩スペースで見物していた。ポールの心遣いに彼は深く感謝していた。ダリル1人だったら、ライサンダーを抱き締めることしか思いつかなかっただろう。ポールは過去にも部下達をこんな風に励ましてきたのだ。
 ポールが冷たいレモンジュースのグラスを両手に持ってやって来た。ダリルに一つ渡して隣に座った。

「いろいろ気を遣ってくれて有り難う。」

 ダリルが言うと、彼は顔をしかめた。

「他人行儀だな。」
「だって、私が息子の存在を君に押しつけたようなものだから。」
「俺は君が俺の息子を創ったと知った時、嬉しかったんだ。」
「嬉しかった?」
「ああ・・・執政官はドーマーから大勢子供を創るが、俺たち自身の子供にはならないからな。1人ぐらい手元に残る子供が居ても良いかなと思うのは、俺だけじゃないはずだ。」
「私もそう思ったから、ライサンダーを創った。」
「敢えて言わせてもらえば、その気持ちを俺に伝えて欲しかった。」
「すまない・・・子供を持つと言う考えは唐突に思いついたんだ。それ迄は君さえ居てくれればと思っていた。」

 ライサンダーは、ダリルとポールがそれぞれ手にジュースのグラスを持ったままでキスを交わすのを目撃した。ハッとした瞬間、

「隙あり!」

 ドーマーに投げ飛ばされた。