2017年2月1日水曜日

訪問者 25

「俺からも質問がある。」

 ポールがポーレット・ゴダートの画像をライサンダーに見せた。

「おまえの妻はこの女性だな?」
「うん。」
「彼女とはどこで知り合った?」
「職場。俺、本当は山の家に帰るつもりだったんだ。だけど、ヒッチハイクしたら北へ行くトラックばかりで、結局港町で仕事を探した方が見つかり易いって聞いたんで、ここへ来たんだ。それで求人広告見て、ドッティ海運の倉庫で雇ってもらえた。バイトだからあんまり身分証にこだわらなくてさ・・・」

 ライサンダーはダリルからの遺伝で機械の操作は得意だ。重機でも運送機械でも何でも操縦出来るから、きっと重宝されたのだろう。
 ポーレット・ゴダートがドッティ海運の倉庫会社で働いているのも納得出来た。彼女はアメリア・ドッティの命の恩人だ。ドームで第1子を出産した時、ポーレットは失業状態だったので、アメリアが仕事を紹介したのだろう。そして、彼女はライサンダーと出遭ったのだ。

「彼女の過去は知っているのか?」
「うん、全部話してくれた。最初の亭主が亡くなったことも、赤ちゃんを養子に出したことも。だから、俺も全部話した。」
「全部?」

 ポールは内心ギョッとした。まさかドームの中の出来事まで喋った訳ではあるまい?
ライサンダーは彼の動揺を気づかなかった。

「俺がクローンで、父さんと山で暮らしていた世間知らずだってことさ。父さんが遺伝子管理局に逮捕されたことも言った。そしたら・・・」
「彼女がダリルと出遭ったと語ったか?」
「うん。貴方のことも知っていたんだ。」

 ライサンダーはポーレットから聞いた通りの話を語った。

「父さんは体調を崩して入院していたそうだね。でもポーレットが出遭った時はプールで泳いでいたそうだから、もうかなり良くなっていたんだと思う。
 俺、貴方が合コンに参加したって聞いてびっくりした。」
「俺も、ダリルに誘われた時はびっくりしたんだ。」

 2人は一瞬目と目を合わせ、互いに吹き出した。

「俺が女と食事するイメージは湧かないか?」
「うん・・・ごめん・・・だって、貴方は綺麗だし、女の人が嫉妬するかも知れない。」
「息子にそんな褒め方をされたくない。」

 さりげなく言った言葉が、ライサンダーを感激させた。

「父さんとは仲良くやってる?」
「一緒に住んでいる。仕事も一緒だ。俺がボスで彼が秘書だ。ボスに説教垂れる秘書だがな。」
「父さんはいつも理詰めで言うだろ?」
「ああ、言い返せないので困る。」

 2人でまた笑った。笑いが収まって、ライサンダーが初めて本音を漏らした。

「俺、正直なところ、不安なんだ。本当にちゃんとした父親になれるんだろうか? 妻と子供を守っていけるんだろうか?」
「出来る。」

 ポールがまた断言した。

「ダリルはたった1人でおまえを育てた。ドームを飛びだした時の彼よりも今のおまえの方が世間を知っている。なによりも、おまえは父親がどんなものか知っているじゃないか。ダリルにはいないんだぞ。」

 ポールは立ち上がった。あまり長居すると部下からも近所からも怪しまれる。

「俺の直通番号はまだ覚えているな?」
「うん。」
「何か困ったことがあれば電話しろ。金の無心以外なら聞いてやる。」

 部下が待つ車に戻ったポールは、待たせた詫びに、ケリーにロブスターを食べに行こうと声を掛け、ヒギンズ共々から感謝された。
 一方、ライサンダーは遺伝子管理局の一行が走り去るのを窓から見送っていたら、近所から電話が掛かってきたのだが、その内容を聞いて危うく仰天するところだった。

「セイヤーズさん、さっきお宅に大統領が来てなかった?」

 そう言えば、髪が生えたポール・レイン・ドーマーの顔をどこかで見たと微かに思ったのだが・・・