2017年2月5日日曜日

大嵐 6

 ドームからポートランドまでヘリコプターで半時間もかからない。支局で車に乗り換えたダリル・セイヤーズとクロエル・ドーマーはニューポートランドの街の入り口でジョン・ケリー・ドーマーのミニバンと合流した。
 ポール・レイン・ドーマーがセント・アイブス出張所のリュック・ニュカネンにドン・マコーリーの身辺調査を依頼したのが午前10時、ニュカネンがマコーリーのクリニックに出向いて医師が「往診」に出かけたことを知ったのが10時半。マコーリーの同性のパートナーは、医師が幼馴染みの女性の診察に出かけたと言った。行き先は知らないと言うので、ニュカネンは車番を聞いて、ハイウェイの通過車輌記録を警察に調べさせた。するとポートランド方面に向かったことが判明したのだ。
 ニュカネンが機転を利かせ、ポールではなく本部に連絡を入れたのは午前11時半過ぎ。ローガン・ハイネ・ドーマー局長は、マコーリーがライサンダー・セイヤーズの子供を狙っているのではないかと考えた。ポーレット・ゴダートは幼馴染みの産科医を信用して胎児の性別を明かしてしまったに違いない。
 局長は直ぐに休日でドームの中にいたクロエル・ドーマーを本部に呼んだ。ダリル・セイヤーズ・ドーマーを息子の元に遣るので、護衛せよと命じたのだ。「護衛」も「お遣い」も局長が執政官に対して設けた口実に過ぎない。局長の本心は、マコーリーからポーレット・ゴダートの胎児を守れと言うことだった。
 クロエル・ドーマーはダリルを興奮させまいと、ドームから出てしまう迄局長の真意を語らなかった。ヘリの中で経緯を簡潔に語られた時、ダリルは冷静に聞けた。ドームの中にいたら息子のことが心配で居ても立ってもいられなかっただろう。しかし、ヘリは息子の元へ向かっていたし、目的が息子夫婦を守ることだと聞かされて、彼は冷静になれた。
 ニューポートランドの閑静な住宅街に入ると、ダリルは息子が妻子と共に生きる場所として選んだ土地を眺めた。山の家と違って緑豊かな平坦な街だ。上品な住人の中で、あの野生児が精一杯背伸びして暮らしている・・・。
 先を行くジョン・ケリー・ドーマーのミニバンが停車したので、クロエルも車を駐めた。ケリーから端末に電話が入った。

「ライサンダー・セイヤーズの家の前に、マコーリーのミニバンが駐まっています。拙い状況じゃないですか?」

 ケリーは以前セント・アイブスで相棒のパトリック・タン・ドーマーを学生デモのどさくさに紛れて誘拐されてしまった苦い経験がある。また繰り返しなのか?
 ダリルがセンサーで屋内の人物の位置特定をしてから、彼に指示した。

「君のバンをあの車の前に駐めてくれないか。私達は後ろに駐めてはさむ。」