2017年3月4日土曜日

オリジン 13

  ダリルは翌日オフィスで1人仕事をした。ポールの出張は予定外だったから、2人分の仕事がきっちり彼を待っていた。10時過ぎる頃に、クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが手伝いに来た。クラウスのチームは抗原注射効力切れの休暇なので、注射が不要の彼も休日なのだ。休日と言っても、殆どのドーマーは遊ばない。遊べる場所はドームの中では少ないし、だらだら過ごす様な生活をドーマーは知らない。クラウスは朝食をアパートの部屋で妻と取ってから朝食会に出て来る。休日でも必ず参加して仲間の仕事内容を確認する。
 彼は直属の部下のパトリック・タン・ドーマーが真夜中に退院してチーフ・レインのお供で西海岸に出かけたと聞いて、喜んだ。他人の手が触れる度にビクビクしていたタンが、やっと以前のタンに戻ってくれたのだ。

「昨日の午後、ジムで格闘技の練習をしたと聞いて、今日にも退院出来るかと期待したら、既に退院していたんですね。」
「ポールはチャイナタウンでお茶を買いたいんだよ。だからタンを連れて行きたかったんだろ。」

 クラウスは室内を見回した。

「ライサンダーはいないんですね?」
「いても役に立たないだろ。局員じゃないから書類もコンピュータも見せられないし。」
「そう言えばそうですね。 で、彼は今日は何をしているんです?」
「昨日パブでバスケットボールのチームに誘われたと言っていたが。」
「それじゃ、輸送班の『サタデーフィーバーズ』か、被服準備班の『ブラックブルズ』ですね。2チームしかないから。」
「どっちも日中は仕事をしているだろ?」
「だから、試合は夜ですよ。」
「では、ライサンダーは今どうしているんだ?」
「僕は知りませんよ。でもドームの中に居るのなら、ほっとけば良いんです。」
「放ってあるさ。だが外と違ってドームではやれることが限られる。」

 ライサンダーは図書館にいた。JJが一緒だった。声を使わずに端末のメッセージを入れて会話するので、静かな図書館では自然に見える。JJは赤ん坊の状態の説明をした。
専門用語で胎児の成長過程を語るので、ライサンダーは右から左へ聞き流した・・・いや、読むふりをした。

ーー赤ちゃんの名前 考えた?
ーーポーレットかポーリン、迷っている。
ーーどっちもポールが入っているのね。

「え・・・?」

 ライサンダーはスペルを考えて初めて気が付いた。偶然だが、父親の名前が入っていた。 別に嫌ではないとも思った。ただ、ダリルが入っていないのは不公平かなとも思った。

ーーダリル父さんはどっちが良いって言ったの?
ーー父さんがポーリンを思いついたんだ。
ーーじゃ、ポーリンにすれば?