2017年3月29日水曜日

奮闘 5

 ジェリー・パーカーはネットで葬儀の告知を見ていた。それが楽団付きの旧式の葬列であることも知っていた。だからラムゼイ博士の墓参りをこの日に選んだ。ジェシー・ガーの掲示板にも墓参りの予定をさりげなく書き込んでおいた。ガーが観光客に紛れて接触してくるのではないかと期待したのだ。
 しかし、ジェリーの当ては外れた。ガーは葬列にはおらず、追いかけて来たのは「脱走ドーマー」1人だけだった。裏切り者の運転手は現れないのか。ジェリーは内心溜息をついた。
 ラムゼイ博士の部下の大半は捕まった。彼等は秘書のジェリーが同じ裁判や拘置所にも刑務所にもいないことを不審に思ったはずだ。遺伝子管理局はジェリーが逃げて仲間と合流するこのないように、彼等に、博士の秘書はクローンで、研究材料としてドームに収容されたと伝えていた。情報操作でジェリーに逃げ場を与えないようにした。ジェリーが帰る場所はドームしかないのだと悟らせた。
 ジェシーがジェリーに接触してくるとすれば、その目的は仲間として旧交を温めるのではなく、逃亡の手助けをするのでもなく、ジェリーの遺伝子操作の手腕を欲しがる人に彼を売りつけるためだろう。ジェシーが墓地に来ないのは、買い手がいないからだろう。
 自らを囮に使おうとしたジェリーの目論見は外れた。折角あの白い頭髪のドーマーの首領を説得してドームの外に出て来たと言うのに。
 このままだとダリルに車へ導かれてホテルへ連れて行かれてしまう、と思った時、一つの墓石の前で佇む男が目に入った。その横顔に見覚えがあった。
 ジェリーは空を見上げ、呟いた。

「畜生、くそみたいに良い天気だぜ。」

 ダリルが足を止めた。一瞬ジェリーを見てから、彼も空を見上げた。

「そうだな・・・だが、遊びに来たのではないぞ。」
「ホテルに行ったら自由時間は認められないのか?」
「君は囚人だ。」
「そうだったかな。」

 ジェリーは笑い顔をつくりながら、視線を墓石の方向へ向けた。恐らくダリルもそれを追って見たはずだ。

「カレリアホテルは小さいが快適な宿だ。」

とダリルが故意に宿泊先の名を明かした。

「ホテル内に店もあるから、建物から出さえしなければ一晩だけ自由に歩き回っても良い。ただし、必ず私か保安員を同伴しろよ。」
「監視が付くんじゃ、自由とは言えないな。それに店ったってコンビニに毛が生えたようなもんじゃないか。」
「ドームの中でも同じだろう、君はいつだって監視付きで行動している。」

 恐らく墓石の前に男の耳に会話が入ったはずだ。男がジェシー・ガーだとしても、この場では接触しないだろう。開けた場所だし、近くには葬列の団体がいる。
 ダリルはジェリーの肩を掴み、来た方角へ体の向きを変えさせた。

「さあ、墓参りが済んだのだから、ホテルへ行くぞ。」