2017年4月8日土曜日

奮闘 10

 就寝したのは午前3時近くで、ダリル・セイヤーズ・ドーマーは寝起きの悪い男だったが、何故かドームの外ではちゃんと予定した時間に起床出来る。いや、ポール・レイン・ドーマーがそばにいなければ、と言うことか。きっとポールが横に居る時は彼に守られていると言う安心感があるのだろう。
 ダリルは午前6時に目覚めた。打撲傷が痛んだが、起き上がり、シャワーを浴びて服を着た。そしてジェリー・パーカーを起こした。ジェリーは彼よりも症状が重かった。病院で医師に診せた打撲傷以外にも痛む箇所が朝になって出て来た。腕の裂傷は縫合され保護テープで守られていたが、鎮痛剤は食後だ。いてて、と嘆く彼を手伝って着替えをさせ、ダリルは隣室のアキ・サルバトーレ・ドーマーが起床していることを確認してから、朝食に出かけた。
 カレリアホテルの2階にあるカフェで3人は軽く朝食を取った。アキは昨夜からウェイターロボットが給仕をするドームの外の習慣を面白がっていた。昔は人間の仕事で、高級レストランでは現在でも人が給仕するのだとジェリーが教えると目を丸くした。ドームでは子供時代から食事は食堂でセルフサービスだ。カレリアホテルでもビュッフェサービスなのだが、卵料理や特別メニューはウェイターロボットが注文をとりにきた。
 ダリルはアキとジェリーにドームへ帰るようにと指示を出した。ジェリーは反発するだろうと予想したのだが、意外にも素直に応じた。打撲傷でかなり彼の心は折れてしまったのだ。

「こんな状態じゃ、博士の仇を討つどころか、そばまで行けねぇ。」

 卵をフォークですくって口へ運ぶだけでも辛そうだ。

「だけど出直すチャンスはもうないだろうな・・・悔しいが・・・」

 ジェリーは利口だ。体力的に無理だとわかっていながら行動することはしない。必死で頭を使って出来ることを考えていた。
 アキの方は、ダリルが残ることを考えていると察すると渋い顔をした。

「僕は貴方の護衛もしているのですよ、貴方を置いて戻れば叱られます。」
「君はジェリーを無事に連れ帰れば良いんだよ。怪我人を抱えて私の守までは無理だと、ドームも納得するさ。」
「しかし・・・」

 するとジェリーがアキに言った。

「セイヤーズはおまえさんより外の世界に慣れているんだぜ。1人でも充分生きていける。放っておいても大丈夫だ。それより、俺をしっかり護衛してくれ。俺は歩くのがやっとだからな、今敵に攻撃されても躱しようがない。」

 ダリルはジェリーの目を見た。ジェリーが微笑した。

「おまえに賭けることにした。ジェシーに博士を消すよう指図したヤツを捕まえてくれ。」

 トーマス・クーパー元ドーマーがホテルに3人を迎えに来た時、既にダリル・セイヤーズ・ドーマーは姿を消していた。