2017年4月9日日曜日

奮闘 11

 ダリル・セイヤーズ・ドーマーは決して無茶はしないと心に決めていた。ジェシー・ガーの死は事故で不可抗力だった。怪我も防ぎようがなかった。ダリルのせいではない。
と彼は自身に言い聞かせ、ヒッチハイクでセント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンに移動した。昼過ぎには、出張所のリュック・ニュカネンの前に姿を現して、堅物の所長を驚かせた。
 2階の休憩室で一休みさせてもらってから、本部に電話を掛けた。ハイネ局長に直通で掛けたかったが、流石に無断で単独行動をとってしまったので気が引けた。留守を預かってもらっているクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーに最初に掛けた。
 クラウスは既にネピア秘書から事故の報告を聞かされていた。

「兄さん、また逃げたんですか?」
「逃げた訳じゃない、どうしてもラムゼイの事件のけりを着けたいだけなんだ。」
「そうやって報告してくるから、信じましょう。」
「アキ・サルバトーレ・ドーマーとジェリー・パーカーは戻ったかい?」
「さっき空港に到着した模様です。僕の秘書が迎えに行きました。執政官も数名ゲートに向かったそうです。ジェリーの怪我は酷いのですか?」
「打撲傷が全身に・・・昨夜病院で手当してもらった箇所とは別に今日になって痛み出した場所がいくつかあるんだよ。」
「打ち身はそう言うもんでしょう。命に別状はないのですね?」
「それはない。ジェリーは体を動かすのが億劫で、ドームに帰ることを素直に承知したんだ。アキは抗原注射初心者だし、今夜で効力切れだからね。」
「苦痛の洗礼ですね・・・保安課にいたら一生体験しないはずですが・・・」

 クラウスはちょっと笑った。アキはきっとドームの外の体験を楽しんだはずだ。抗原注射の効力切れの脱力感や胸焼けに似た気分の悪さは、その代償だ。

「ところで兄さん、いつ戻って来るつもりなんです?」
「会いたい人に会って、話を聞いたらね。」
「黒幕に?」
「恐らく。」
「危険じゃないですか?」
「だから、単独行動は控える。」
「誰か同行者がいるんですか?」
「ニュカネンに頼むつもりだ。」

 リュック・ニュカネンを知らない人間がセント・アイブスにいるとすれば、それはもぐりだ。逆にニュカネンを知っていながら敵対する人間がいるとすれば、それは真っ向からドームと地球政府に敵対することを意味する。
 つまり、セント・アイブスの街では、ニュカネンと一緒に居れば安全だと言うことだ。
それでもクラウスは不安だった。ダリルとニュカネンは幼少期から馬が合わない。ダリルのマイペースにニュカネンがついて行けないので、怒らせるのだ。

「お願いですから、喧嘩しないで下さいね。」

とクラウスが懇願した。

「僕等はこれからもずっと彼の援助で仕事をするのですから。」