2017年5月28日日曜日

家路 7

 ポールが横目でライサンダーを見た。

「その溜息は、おまえには彼女の許へ行く気がないと言う意味か?」
「そうじゃない・・・まだ結論が出せないだけさ。父さんにも相談しないと・・・」
「ダリルも結論は出さないさ。」

 その時、玄関のドアがそーっと開いて、ダリルが遠慮がちに静かに入って来た。夜遊びした時は、いつもポールの顔色を伺うかのようにこっそり帰って来る。ポールがデートが原因で彼の帰りが遅くなることを咎めたことは一度もないのだが。
 ポールとライサンダーが向かい合って座って話し込んでいるのを見て、彼は立ち止まった。「やぁ」と息子に声を掛けてから、

「深刻な話し合いかい?」

と尋ねた。
ポールが振り返らずに答えた。

「フランシスがライサンダーに同居を提案したのだ。」
「ああ・・・」

ダリルはさほど意外でもなさそうな声を出した。

「彼女は農業をやるって決心したんだな。」
「何のことだ?」

 ポールが振り返った。ダリルは直ぐには答えずにキッチンに行くと、冷蔵庫から水のボトルを出した。パートナーと息子を振り返り、「要るか?」と尋ねた。ポールが頷き、ライサンダーも「要る」と答えたので、彼はグラスを3箇出して水を配った。
 喉を潤してから、彼はポールに言った。

「ポーレットの葬儀の後で、アメリアが君に私が住んでいた山の場所を尋ねただろう?」
「ああ・・・」

 ポールも何かを思い出した。

「ライサンダーが山に帰るつもりがないのなら、君の家を買い取りたいと、彼女が言っていたな。」
「数日後に彼女は私に電話を掛けてきて、家を売って欲しいと言ったんだ。実のところ、私は住んでいた山の土地の正式な所有者ではない。無断で隠れ家を造って住んでいたのだからね。だから、ライサンダーが住むのだったら私は何も言わないつもりだったが、彼女の様に社会的地位のある人は土地の所有者を探して交渉してもらわなければ、後で厄介なことになる、私には何も権利がないからと言ったんだ。」
 
 ポールは脳天気なパートナーをじっと見つめた。西部開拓時代の真似をしていたのか? と心の中で呟いた。

「彼女は地主を見つけたのか?」
「大異変の後、個人の所有者はいなくなって、州が管理していたらしい。と言っても、荒れ地だし、開墾する人間がいなかったので放置されていたんだ。だから、州知事は開墾する人がいれば売却すると言ったそうだ。」
 
 ライサンダーが首をかしげた。

「アメリアは土を耕す様なタイプじゃないけど・・・」
「実を言うと、彼女はパリから引き揚げて来るフランシスの住む場所を探していたんだよ。」
「それじゃ、フランシスが言った、モントレーって・・・俺達の家のこと?」
「州の土地の登記簿には、大異変の前に、あの場所にモントレーと言う小さな集落があったと記載されていたらしい。200年以上前のことだから、今は検索しても出てこない。」

 ポールとライサンダーは互いの顔を見やった。

「あの荒ら家がモントレーだと?」
「荒ら家とは失礼な! 父さんと俺が18年間暮らした家だよ。」
「すまんな、俺にとって家はドームなのでな。」
「父さん、フランシスはあの家を購入する為に農業を始めるのだろうか?」
「それが州知事が出した条件だから。彼女は農業を多少は知っているのかも知れない。食品の会社を経営しているからね。実際にやったことがあるかどうかは不明だが。」

 ポールが納得がいったと言う顔をした。

「フランシスはライサンダーに畑仕事を教わりたいのだな。」