2017年6月24日土曜日

侵略者 3 - 2

 防疫班が到着する迄の間、全ての出入り口を塞がれた送迎フロアで、10名の人間が何が起こっているのかわからぬまま時を過ごしていた。
 ケンウッドは一番ドームの入り口に近い場所にいた。その場所から動くことをハイネが許さなかった。ゲートの係官は遅れてフロアに入ってきていた人々をフロアのベンチスーペースに案内してそこで座って待機するよう誘導した。その後で彼は遺伝子管理局長を手伝おうとしたのだが、それもハイネは禁じた。
 ヘンリー・パーシバルだけが彼のそばにいた。

「僕はその人とシャトルの中でずっと隣り合って座っていた。もし感染するなら、僕も君と同じ程度のリスクを負っている。」

 「その人」とは、ハイネの腕の中で血を吐き呻いている男性だった。ケンウッドが知らない人物だった。ハイネはその男性が誰かとは尋ねなかった。誰なのかは後で調べればすぐに判明するはずだ。ドームが身元不明の人間を決して入れたりしない。
 ハイネは患者を右側臥位で顔を横向けにして吐血しないよう静かに抱え直した。

「この人は病気ですか?」

 と彼がパーシバルに尋ねた。パーシバルが小さく頷いた。

「僕の知識の範囲内では、カディナ病と言う、宇宙黴の一種に起因する感染症に思える。」
「カディナ病なら・・・」

 ベンチに座っている女性が口をはさんだ。ケンウッドは彼女の顔は知っていた。薬品をドームに卸している火星コロニーの業者だ。

「・・・空気感染はありません。血液や唾液、汗などの体から出る液体に触れなければ・・・」

 パーシバルは自身の皮膚に付着した血液の飛沫を眺めた。そしてまともに吐血を浴びたハイネを哀しそうに見た。

「申し訳ない、この人の横にずっと居ながら、この人の容態の変化に気が付かなかった。」
「恐らく、ゲートの消毒で与えられた内服消毒薬が体内の黴を刺激したのでしょう。」

と先刻の業者が言った。 彼女はベンチスペースにいる人々を見廻した。

「私達は検査を受ける必要があります。その人と同じ空間に長時間同席していましたから。でも、その人、ドームの学者さん・・・」

 彼女はケンウッドを指した。

「貴方は大丈夫だと思います。でも検査は受けられた方が良いです。」
「わかっています。他に患者に触れた人はいませんでしたか・・・」

 ケンウッドはハッとした。

「消毒班のドーマー達がいたっ!」

 パーシバルがぎくりとして、ハイネを見た。ハイネが溜息をついた。コロニー人が地球を宇宙の病原菌で汚染してしまったのだ。