2017年7月18日火曜日

侵略者 6 - 10

 ケンウッドはキーラ・セドウィックに尋ねた。

「侵入した不審者とは女ですか?」
「いいえ。」

 キーラが固い声音で答えた。

「男です。パスらしき物を首から提げているから、宇宙から来た人間でしょう。」

 その時、ハイネのローブのポケットの中からも緊急信号が聞こえた。ハイネは保安課から持たされていた連絡用の端末を出した。彼が名乗ると、保安課が何かを彼に告げた。
ハイネはちらりとピッツァの屋台を見てから、「すぐ戻る」と返事をした。
 ケンウッドもキーラに

「私が様子を見に行きます。それから、彼は今日は給食がないので、私と一緒に食べ物を探していました。」

と告げて安心させた。
 2人は空になった食器を返却ブースに置いて観察棟に向かって歩き始めた。中央研究所、観察棟、出産管理区の入り口は一般のコロニー人は立ち入り禁止だ。規制線が張ってあるのだが、無視して入り込んだ人間が居たのだ。
 歩きながらケンウッドはハイネに仮装の衣装や化粧品はどの様にして調達したのか尋ねた。すると返答内容は簡単だった。お祭りなので、保安課は例年の如くクローンの少年達も楽しませる為に女装道具をあらかじめ準備してあったのだ。だから少年達の数人は女装して遊びに行っている。ハイネも体格に合わせた服を用意してもらって化粧もしてもらったのだ。この日は女装している方が観光客に見つからずに安全に過ごせるからだ。
 観察棟の前迄来て、ハイネが立ち止まった。ケンウッドも足を止めた。白雪姫姿のリン長官と狩人姿のアルテミスに扮した保安課長クーリッジが一足先に観察棟に入って行くのが見えたからだ。彼等も保安課員に呼び出されたのだ。
 ハイネがケンウッドに囁いた。

「先に入って下さい。私は保安課の詰め所で衣装を返して化粧を落としてから戻ります。」
「私も化粧を取るよ。」

ところが

「駄目です、貴方は執政官だ。夜の表彰式迄その姿で居なければなりません。」

 ハイネがニヤニヤしながら断言した。ケンウッドは抗議した。

「何故君だけが男に戻れるんだ?」
「私はドーマーですから。」

 ハイネは声を落とした。

「それに、先刻貴方は私にキーラ・セドウィック博士に化けたのかと訊かれた。それなら、サンテシマにこの姿を見せる訳にはいきません。」

 それはどう言う意味なのか。ケンウッドはもっと突っ込んで尋ねたかったが、時間はなかった。
 ハイネと別れて、ケンウッドは観察棟に入った。顔馴染みの執政官なので、入り口をガードしていた保安課員には顔パスで通れた。彼は保安課員に尋ねてみた。

「侵入者は捕まえたのか?」
「はい、奥の会議室で取り調べ中です。」

 それでケンウッドは会議室に行ってみた。