2017年7月23日日曜日

侵略者 7 - 4

 ケンウッドは観察棟を出て、森へ足を向けた。午後なので仕事を終えたドーマーや執政官達が寛いでいる。監視カメラの数が少ないので、息抜きが出来る場所だ。そこへ行ってみたが、思いの外カップルが多かった。ハイネが独りの時を過ごすにはふさわしくない。
 ケンウッドは小径で立ち止まって考えた。

 そう言えば、キーラ博士からは何も言ってこない・・・?

 キーラ・セドウィック博士は縫いぐるみでローガン・ハイネ・ドーマーを見守っている。彼に異変があれば、或いは彼の部屋に誰かが侵入すれば、彼女はケンウッドに知らせてくれる約束だった。ハイネが「家出」したことに気が付いていないのか? それとも・・・?
 ケンウッドは遺伝子管理局長が出産管理区に出入り出来ることに気が付いた。ただ、この権限を行使した遺伝子管理局長は1世紀前の人物1人だけで、ケンウッドは名前すら覚えていない。ハイネがキーラに慰めてもらいに行ったとも思えない。だが・・・

 回廊はまだチェックしていなかった!

 ドームの住人が居住し働く区画と、出産管理区は仕切られている。男ばかりの社会と女の世界を仕切って女性の安全を守っているのだ。この2つの場所を往来出来る通路は3箇所あって、一つは両方の世界に共通して建っている医療区だ。しかしハイネはそこに行っていない。後の2つはドームの東西両側をぐるりと回り込む回廊と呼ばれる長い通路だ。外から来る人々は出産管理区側にある送迎フロアを通って東西どちらかの回廊を徒歩で歩いてドームの中に入る。乗り物も通れるが、主に物資の運搬に使われている。出産管理区が広大な施設なので、回廊もかなり長大な道だ。そしてこの道には寄り道出来る場所が一つもない。トイレさえないので、ここを通る時は事前に済ませておかねばならない。
枝道がないので、回廊は出口と入り口に監視カメラがあるだけで、回廊本体のカメラは2つか3つしかなかったはずだ。

 長大な死角だ。

 回廊を調べるには、東西どちらかを選ばなければならない。距離が長いから時間がかかる。ケンウッドはクーリッジ保安課長に電話を掛けた。

「保安課長、東西の回廊のドーム側入り口の画像をチェックしてもらえませんか?」
「回廊?」

 保安課長は一瞬戸惑ったが、すぐにケンウッドの思いつきに思い当たった。

「そうか・・・回廊は馬鹿でかい死角だ・・・」

 数分待てと言って、クーリッジは一旦電話を切った。情報管理室に命じて回廊入り口の記録を再生させたのだろう。
 ケンウッドは、もしハイネを見つけたら、何と声を掛けようと考えた。お悔やみ申し上げる、と言うべきだろうか。それとも知らぬふりをして、早く帰ろう、と言うべきか。
 クーリッジから電話が掛かってきた。

「1時間前に、西回廊にハイネが入っていくのが確認された。まだ出た記録がないから、彼は回廊のどこかに居る。」