2017年8月5日土曜日

侵略者 9 - 5

 ケンウッドが観察棟を出るのと入れ違いに遺伝子管理局の在ドームの幹部達が入館して行った。彼等とはあまり親しくないのでケンウッドは黙礼を交わしただけだったが、彼等は彼が局長と親しく付き合っていることは承知なのだった。寧ろ局長の命を救った人として評価されていた。だから本来なら寝ている時間に地球人をコロニー人が訪ねていても、彼等は不審に思わなかった。最後に内務捜査班のジャン=カルロス・ロッシーニ・ドーマーと出口から数メートル行った辺りで出会った。

「ケンウッド博士、おはようございます。」

と彼が声を掛けてきた。先に入館した幹部達同様、彼も私服だった。急いで起きて出て来たので、スーツに着替える時間がなかったのだ。ケンウッドは局長も寝間着だったな、と思いながら、返事をした。

「おはよう、ロッシーニ・ドーマー。ドームの不手際で大事になってしまった。」

 ロッシーニはまだ何も知らされていない。しかし、パーシバルや若い遺伝子管理局員達がセイヤーズを探し回っていたことは知っていた。

「セイヤーズの行方がわかりましたか?」
「いや、わからないが、確証を得たことが一つだけある。局長から報告があるはずだ。」

 ケンウッドが詳細を語らないことで、ロッシーニはことの重大さを理解した。彼は頷き、先を急いだ。
 ケンウッドは歩きながら、パーシバルの端末に電話を掛けた。パーシバルはまだ起きていた。寝ずにケンウッドの報告を待っていたのだ。

「手がかりは見つかったか、ニコ?」
「うん。セイヤーズは脱走した。」
「はぁ?」

 パーシバルはリン長官みたいに間抜けな声を出した。ケンウッドは歩きながら喋りたくなかったので、相手の現在地を訪ねた。パーシバルは彼自身の研究室に居た。ファンクラブの仲間とポール・レイン・ドーマー、クリスチャン・ドーソン・ドーマー、それにクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが一緒だと言った。散開しての捜索は既に打ち切っていた。ケンウッドは真っ直ぐにそこへ行く、と告げた。

「ただし、ドーマー達はアパートに帰らせてくれ。彼等には、遺伝子管理局から正式な説明があるはずだから。」

 そして一言付け加えた。

「セイヤーズは現在のところ無事だと思う。バスの中だから・・・」