2017年10月15日日曜日

退出者 1 - 2

 ポール・レイン・ドーマーとリュック・ニュカネン・ドーマーは同じ部屋で育った同年齢の子供達で、レインがニュカネンより半年早く生まれていた。同じ部屋には他にも8名の子供が居て、レイン、ニュカネン、そしてレインに遅れること1日の差で生まれたダリル・セイヤーズ・ドーマーの3名が最年長、1歳年下のクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーの4名が遺伝子管理局に入局した。彼等は「部屋兄弟」と呼ばれる間柄なので、仲良しであるべきなのだが、本当の兄弟でも仲が悪い人々が居る様に、ドーマー達にも馬が合う合わないがあって、真面目なニュカネンは脳天気なセイヤーズといつも仲違いした。そしてセイヤーズにぞっこんのレインは、当然ながらニュカネンを敵視したので、誰にでも懐くワグナーはそんな兄貴達の関係に頭を悩ませていた。
 ワグナーは接触テレパスのレインにニュカネンの様子がおかしいと相談したかったのだが、レインはニュカネンの顔を見るだけでもイライラするので、言い出せなかった。それにレインは他人の恋愛より自身の恋人の捜索で頭がいっぱいなのだ。セイヤーズが脱走して2年以上経つが、まだ彼の行方はつかめないでいた。
 ケンウッドは堅物ニュカネンが恋愛をしていると聞いて、信じられない思いだったが、真面目な青年だからこそ真剣に恋をしているのかも知れないと思い直した。

「君は相手の女性を知っているのか?」
「はい・・・恐らく、セント・アイブス・カレッジ・タウンの市役所で働いている女性です。」

 セント・アイブス・カレッジ・タウンは中南部にある学術研究都市だ。主に遺伝子工学を中心とする大学で、野生生物のクローン製造と繁殖に実績がある。遺伝子管理局はセント・アイブス・カレッジ・タウンから北へ車で1時間ほどの所にあるローズタウンに支局を置いている。そこからセント・アイブスの大学や遺伝子関連の民間研究施設などの監視を行っているのだ。支局巡りをする局員も時々大学街を視察する。遺伝子管理法に違反する研究が行われていないか、抜き打ちで検査するのだ。そして検査結果を市役所に通知する。違反項目があれば、市役所は警察に通知して捜査が入る。
 ニュカネンの恋は、その業務の中で始まったに違いない。

 ドーマー達は日常生活でコロニー人の女性としか接触しないので、地球人の女性が新鮮に見えるのだろう。

 堅物故に、なおさら・・・とケンウッドは若者の恋を想像した。彼はワグナーにさらに尋ねた。

「チームリーダーは知っているのかね?」
「いいえ。」
「すると局長も知らないのだな?」
「はい・・・局長にこんなレベルの低い相談は出来ませんから・・・」
「そうかな・・・」

 ケンウッドはクスッと笑った。ワグナーはハイネ局長にも恋愛で悩んだ若き日があったことを想像すらしていないのだ。

「ニュカネンがどこまで真剣なのか、知っておかねばならないだろうな。」
「僕が心配なのは、そこです。リュック兄が遊びで女性と付き合うとは到底思えません。」

 確かに、これは大問題だ。