2017年11月23日木曜日

退出者 7 - 7

 時間が過ぎて行くが、ケンウッドもパーシバルも気にしなかった。待合室には誰もいないのだ。
 ケンウッドは15代目遺伝子管理局長ランディ・マーカス・ドーマーの逝去を伝えた。パーシバルも会ったことがある。

「皺だらけで目が何処にあるのかわからない程だったが、迫力のある老人だったよなぁ・・・彼の前ではハイネがほんの若造に見えたよ。」

 パーシバルが感慨深げに呟いた。

「これでハイネの行動の謎を解説出来る人がいなくなった訳だ。」
「ハイネは別に謎の人物じゃないよ。」

 ケンウッドは苦笑した。

「彼はストレートにものを言わないだけさ。こっちの反応を眺めて伝わったと思えば話を先に進めるし、伝わらないと思ったら言葉を変えてきちんと教えてくれる。」
「ニコ、君は僕以上にハイネ研究の専門家になったんだな。」
「私は彼を研究などしていないけどなぁ・・・しかしリプリーもハイネ相手に厄介な話をする時は、必ず私を立ち合わせる。通訳だと思われているのかも知れない。」

 パーシバルが可笑しそうに笑った。リプリー長官はあまり人付合いが上手くない。ハイネを怒らせたくなくてケンウッドに仲介して欲しいのだろう、と容易に想像出来た。

「ところで・・・」

とパーシバル。

「さっき、君はニュカネンの恋愛を確認に出掛けたと言っていたな? 本当にあの子は女性と付き合っているのかい?」
「本当さ。レインも驚いていたが、素敵な女性だ。親切で彼を真剣に愛している様だ。」
「そうか・・・いや、ニュカネンに限ってとか、そんな否定的な考えで念を押したんじゃないんだ。むしろ、あの子だからこそ真面目に愛して、愛されるんだと思うんだ。あの子はきっと良い家庭を築けるはずだ。」
「だが、そうなると彼はドームを出なければならなくなる。」

 ケンウッドの心の中に引っ掛かるものがあった。

「ニュカネンは『通過』を数日前に済ませたのだ。彼は外気を気にしなくて済む身体になった。」

 彼とパーシバルは互いの目を見つめあった。リュック・ニュカネンの決意は人生を懸けたものだったのか・・・?