2017年11月26日日曜日

退出者 8 - 3

 翌日の午後、リュック・ニュカネン・ドーマーが帰還した。彼は無断で現地長逗留したことをチームリーダーに叱られたが、任務の成果については褒められた。トバイアス・ジョンソン・ドーマーは彼に調査結果を報告書にまとめさせ、夕方の班チーフ会議で使用出来るように上司のフレデリック・ベイル・ドーマーに提出した。ベイルがそれを披露すると、他の班チーフ達が興味津々でニュカネンのまとめ方を面白がった。南米班チーフがベイルに勧めた。

「一つに限定しないで、ニュカネンがまとめたそのままの報告書を局長にお見せしたらどうだ? きっと局長も面白がって喜ばれるぞ。」

 果たして、ハイネ局長はその報告書を甚く気に入って、翌日昼前にリプリー長官の部屋で行われる定時の業務確認の際に長官と副長官に披露した。
 ケンウッドもリプリーも三次元映像でまとめられた報告書に魅入った。それは5件の不動産物件の立体見取り図なのだが、ニュカネンはそれらの現在の姿と、出張所として使用する場合のプラン図、その為の改装計画、費用見積もりを比較検討出来るよう、目的別に並べ替えられるようにまとめていた。
 ケンウッドは何度かそのプラン画像を並べ替えてじっくり眺め、やがてハイネに目を向けた。

「これを、ニュカネンが1人でまとめたのかね?」
「そうです。不動産屋を片っ端から当たって比較検討して、物件ごとの一番安いプランをピックアップしたそうです。そのために帰還が遅れてリーダーから叱られたそうですが・・・」

 ハッハッとリプリー長官が珍しく声をたてて笑った。

「『通過』を済ませて体に自信がついたので、試してみたかったのだろう。それにしても、かなりマメな男だな。」
「几帳面なのですよ。真面目で堅苦しいところはありますが、仕事に情熱を注ぐ面は誰にも負けないでしょう。」

 ケンウッドは物件3とある3階建てのビルに着目した。1階に職員たちが普段仕事をする事務所と所長室、応接室があり、2階は広い会議室と支局巡りで立ち寄る本部局員が休憩する部屋、3階は検挙した違反者を警察が来る迄拘留しておく「個室」があった。

「無駄がないね、このプランは。しかし、所長が住む場所はないなぁ。」
「所長は別に住居を確保させるのです。ドームと同じで働く場所と休む場所は離しておくと言うのが、ニュカネンの考えです。」
「それじゃ、まるでニュカネン自身が所長職をやるみたいに聞こえないか?」

と言ってしまってから、ケンウッドはハッとした。リュック・ニュカネンは本当にそのつもりではないだろうか? 彼はハイネの反応を見たが、局長は表情を変えなかった。

「誰が所長になるにしても、ニュカネンのアイデアは、どの班の物件プランよりもユニークで現実味があります。」
「まるで現地の人間の協力があったみたいに見えるね。」

と呑気なコメントを述べたのはリプリーだった。