2017年12月15日金曜日

退出者 10 - 4

 アメリカ・ドーム長官執務室で、ユリアン・リプリー長官、ニコラス・ケンウッド副長官、ダニエル・クーリッジ保安課長、そしてローガン・ハイネ遺伝子管理局長が集まって部下の到着を待っていた。このドーム最高幹部4名が集まるのは久しぶりだった。マザーコンピュータのアクセスコード書き換え以来ではなかろうか。つまりそれ以降、ドームの中は平和だった訳だ。
 待つのが退屈なのだろう、クーリッジが無駄口を叩き始めた。

「この4名が集まってのんびり世間話をするのであれば、いつでも歓迎ですが、コンピュータの書き換えが目的でしたら、もう2度と御免ですな。私は既にここで4回も経験しています。1回目は私自身が着任した時、2回目はハイネ局長が就任された時、3回目はリプリー博士が副長官に就任された時・・・」

 彼はサンテシマ・ルイス・リンが長官に就任したとは言わなかった。

「4回目はこのメンバーで1年半前でしたかな・・・」

 すると目を半ば閉じて居眠りをしていると思えたハイネ局長が呟いた。

「次回はお三方が一度に交代されると手間が省けてよろしいのですが。」

 一瞬、3人のコロニー人達はドキリとして彼を見た。ハイネは眠たいのか、それきり黙して下を向いていた。彼はきっと冗談を言ったのだ、そうに違いない、とコロニー人達はそれぞれ自身の胸に言い聞かせた。冗談でなければ、何か彼の気に障ることを言っただろうか。
 不安に苛まれるコロニー人達の耳に、長官秘書のロッシーニがフレデリック・ベイル・ドーマーと部下達の到着を告げる声が聞こえた。リプリーが入室許可を出し、ロッシーニには帰宅許可を与えた。時刻は午後9時を回っていた。普通の地球人は仕事を終えて寛いでいる時間帯だ。しかしコロニー人は出身地のコロニー時間で活動したがるので、夜でも仕事をしている人が多い。ケンウッドは地球時間を採用していたが、宵っ張りには慣れていた。気の毒に地球人のハイネは昼間の疲れが出て眠いに違いない。
 遺伝子管理局北米南部班チーフ、フレデリック・ベイル・ドーマーが部下のリュック・ニュカネン・ドーマーとポール・レイン・ドーマーを伴って入ってきた。彼はレインを秘書机の位置に置かれている待機用席に残し、ニュカネンを連れてドーム幹部達の前へ進み出た。

「貴重なお時間を割いて頂いて有難うございます。」

とベイルが挨拶した。

「セント・アイブス・メディカル・カレッジ・タウンの出張所のハード面での準備が整いましたので、ご報告致します。」

 するとハイネが顔を上げた。眠気が飛んだと言うより、初めから眠ってなどいなかったような、鋭い視線で部下を見て言った。

「始めよ。」